「おばあちゃんに治せない病気はないんだよ。」
「えー?」


懐かしい声が、頭の奥底で聞こえた。


「おばあちゃんって看護婦さんなの??」
「いいや、違うよ。」
「……??」
あたしの問いに優しく微笑む老婆――あれは、あたしのおばあちゃん。
おばあちゃんの言葉に、幼いあたしは首を傾げた。
「なんで看護婦さんじゃないのに何でも治せちゃうの??」
「錬金術さ。」
「…れんきんじゅつ??」
「そうさ。」
幼いあたしはおばあちゃんの言う「錬金術」が分からなくて、
暫く「それ何?」と言うような目でおばあちゃんを見つめていた。
「材料から薬を作ったりするんだよ。金や宝石に変える事もできる――って、アシャンにはまだ早すぎたかねぇ。」
そう言うと、おばあちゃんは笑った。
そんなおばあちゃんに「子供扱いしないでよー」とあたしは頬を膨らませた。

「おばあちゃんはねぇ、ずぅっと己の錬金術で困った人を助けてきたんだよ。」
「えーうっそだぁ!」
「あはは、おばあちゃんの言う事、信じてくれないのかい?」
「だってー…おばあちゃんがそんな凄いことできるわけないじゃん。」
幼い子供であるあたしの正直な言葉に、おばあちゃんは苦笑した。
その時あたしはまだ「錬金術士」ってのがどれだけ凄い職業か知らなくて。
「さて、と。そろそろおねむの時間だねぇ。ちゃんと布団を被って眠るんだよ?」
「はーい。」
だからおばあちゃんの事、私のおばあちゃんはただのおばあちゃんなんだってあの時は甘く見ていた。
そう、あの夜の出来事が訪れなければ……。



その夜、ふと目が覚めた。
(あっつい……。)
夏だから、だろうか。
そんな事をぼんやりと考える。
その時、
「っ……!?げほっ……げほっ……!!」
不意に喉が苦しくなって咳き込んだ。
咳をする度に、頭が少しだけ痛む。
「ぁ、はぁっ……こほん……こほんっ………。」
身体が熱くて、頭がぼんやりする。
思考が回らない。咳が、止まらない。
(や、やだ……なんで…どうしていきなり……!?)
風邪を引いたのだろうか。
だけど布団はちゃんと被ってた。なのに、どうして?
(こんな酷く苦しい風邪は……はじめてだよぉ……。)
頭が痛むから咳を止めようとする。けど、止まらない。
すると次第に喉の奥がじんじんと痛み始め、血の味がした。
(あたし、このまま死んじゃうのかな。)
幼いあたしはそんな考えばかりよぎって。
考えば考えるほど、涙が滲んできた。
すごく苦しくて、苦しくて。
「アシャン……?アシャン!!」
「こほんっ……こほんっ……!!おば、あちゃん……?」
あたしの様子に気づいたのか、おばあちゃんが隣の部屋から駆け寄ってきた。
あたしの顔を見るなりおばあちゃんは慌ててあたしの額に手を当てる。
そして真っ青な顔した。
「これは酷い……!アシャン、平気かい!?今助けるからね。」
「……?」
普段優しいおばあちゃんの、あたしが見た事のないいつになく真剣な顔。
おばあちゃんは普段持ち歩いている大き目の鞄から素早く草を取り出す。
その草を何か変わった器の中で掏り合わせ、あっと言う間に液体に変化した。
それが所謂薬の錬金術だったんだけど…幼いあたしにはそんな風に映って見えたんだ。
「さぁ、」
お飲み?と言うとおばあちゃんはあたしが返事をする前に半強制的に飲ませた。
「……にがい。」
「ははは、そうだろうねぇ。それはとっておきの薬草をすり合わせてできたポーションだからね。」
「ぽーしょん??」
「まぁ、今度ゆっくり教えてあげるね。」
「うん。」
「さぁ、まずはゆっくりおやすみ。ポーションを飲んだんだから、1日たてば回復するはずだよ。」
「……うん。」
「……アシャン?」
せっかく治る、って言うのにどこか暗い様子のあたしを見て、おばあちゃんが不思議そうにあたしを覗き込む。
その時あたしにはおばあちゃんに対しての罪悪感が、あって。
「…ごめんなさい。」
「……何が、かい?」
「疑っちゃって、ごめんなさい。おばあちゃん、こんなに凄い人だって知らなかった。」
「………、」
おばあちゃんは目を丸くさせて、暫し沈黙していたけど、やがて声を出して笑い出した。
「そんな急にしおらしくならなくてもいいんだよ。当然の事をしたまでさ。」
「当然なの??」
「『錬金術士』は困ってる人を助ける職業だからね。それにアシャン?私に言う言葉、間違ってるよ?」
「………え???」
おばあちゃんの言葉に、あたしは首を傾げた。
あたしはおばあちゃんのこと疑ってしまった。
だからてっきり、「ごめんなさい」だと思っていたのに。
そんな疑問を浮かべていると、おばあちゃんは微笑みながら言った。
「助けてもらったらごめんなさい、じゃなくてありがとうって言うんだよ。」
「………ありがとぉっ」
にこにこと微笑むおばあちゃんに釣られて、あたしもやがて笑顔になった。
「…そうだ、アシャン、これをあげよう。」
「……?」
おばあちゃんはそう言うと、不思議がるあたしの首にそっと何かをつけた。
……ペンダント?
「これはね…代々シルフィースの血を受け継ぐ錬金術士がつけていた物なんだよ。」
「……シルフィースの…錬金術士??」
「おばあちゃんはねぇ……そろそろ、錬金術士じゃいられなくなるからさ……。」
「どう言う…こと??おばあちゃん、錬金術士で困ってる人を助けるんじゃないの??」
「………、」
あたしの、真っ直ぐな問いに、おばあちゃんは静かに瞼を閉じる。
それから無言で、あたしの頭を撫でた。
「……いいかい、アシャン。アシャンにやる気があるなら……おばあちゃんの代わりに、錬金術士になってくれないかい?」
「おばあちゃんの代わりに……あたしが…?」
「そうだよ。」
そう言って、微笑むおばあちゃん。
幼いあたしには、どうしておばあちゃんがそんな事言うかなんて疑問は少々あったけれど、
凄く気になる、って程度じゃなくて。
だから、気がつけば笑ってその言葉に頷いていた。
そして、



――……おばあちゃんが年老いて死んでしまったのは、それから間もなくの事だった。



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あとがき。
と言う事でアトリエリメイク開始です……!
元々、昔連載していたファンタジー小説なんですが、更新停滞でボツとなったので無謀にも……。(マテ
何時まで続くか分からないですけど;頑張っていくので宜しくお願いします…!