覚悟を決めたプラチナを置いて、あたしとダースは浮輪を取った。
プラチナを置いて、二人だけで逃げる。
…それは、あたしもダースもとても辛い覚悟で、暫くプラチナの顔が脳裏から離れなかった。
「…行くぞ、アシャン。」
「うん……。」
激しくなっていく海の中を、意を決して飛び込む。
正直、こんな浮輪じゃ助かるかどうかなんて希望すらも、見えないけれど。
「…ほら、手。」
「え?」
「お前が溺れたりしたら、助けようがないだろう。ほら。」
「あ……う、うんっ。」
今はただ、あたしの事を考えてくれてるプラチナとダースを精一杯信じよう。…そう、思った。






「……っ、」


必死に足を動かすも、こんな天候じゃ上手く動けないのも当たり前で、
あたしとダースは微かな希望を抱きつつ行くあても無く、殆ど波に飲まれながらももがき続ける。





それからどれほどの時間が経ったのだろう。
此処は何処だろう?見るところ、船からはだいぶ離れたと思うんだけど……。
「…あっ!」
波に流され続けていると――島が見えてきた。
「ダース、あそこ…!」
「無人島…か?…とりあえず、上陸しよう。このままでもいられない。」
「うんっ…。」
ダースの言葉に頷くと、あたしは握っていた手に力を入れる。
そしてダースに誘導されるように島に向かって泳ぎ始めた。









「う〜、ビショビショ……。」
島まではそこまで距離は無く、波のお陰で案外早く着く事ができた。
……とりあえず、波の流れが島の方向と同じだったことがせめてもの救いね。
「っくしゅん…。」
「…大丈夫か?」
「…ん、これくらいは。」
くしゃみをするあたしを少しだけ心配げにダースが見つめる。
でもすぐに立ち上がって、言った。
「……無人島かどうか、調べてくる。お前はここで待ってろ。」
「え?でも……。」
「疲れているんなら今の内に休んでおけ。どうせ後々これからどうするかの話し合い、それに食料調達もするんだからな。」
「……うん、わかったー。」
珍しく気遣ってくれるダースの好意を、そのまま受け取る。
見渡せばもう夜は明けているようだった。…先ほどの嵐の騒動のせいで、時間を早く感じる。
(それにしても…。)
…そうなんだ。運良く陸に着いたとは言え……問題はこの後なんだ。
ただでさえあまり大きくない――寧ろ小さいように見えるこの島に、人が住んでいるとは思えない。
雨だって止まないし……。無人の可能性が高いこの島で、今夜を迎えることなんて出来るんだろうか。
(おなかも減ったし……ぐー…。)
うん、食料とかの不安だってある。
嵐が過ぎるまでこの島に滞在するとして――それまでの食料となる物が果たしてあるだろうか。


「落ちこぼれ。」
「ん…?」
暫くしてから、ダースが戻ってきた。
「おかえり、ダース。どうだった??」
「……無人島確定。」
そして、無表情なまま言う。……あ、やっぱりか…。
「くそ…せめて人がいればもう少し生存の可能性が上がったんだがな…。」
「せ、生存の可能性、って……。怖い言い方しないでよ!」
「…人間は常に最悪の状態を考えて行動するものだ。」
キリリ、とダースは言い放つ。
……うぐぐ、こんな時にまで冷静なんだから…。
「とりあえず、洞窟があった。少し寒いだろうが…外で雨にうたれるよりはいくらかマシだと思う。」
「うん、じゃあ行こ!」
雨から逃れるように、早足でダースの後へとついていく。
やがて、洞窟らしい場所に辿り着く。
たまに水音が聞こえるが、雨は当たらない。
ダースの言うとおりひんやり寒いけど、雨に当たるよりはマシだ。
「っくしゅんっ!」
「…大丈夫か?」
「う、うん…へーき…。」
ぼんやりしていると、思わず身体がぶるっとなって、くしゃみが出てしまった。
さっきの嵐でちょっと風邪引いちゃったのかも…こんな所で倒れる訳にはいかないけど、ちょっぴり鼻が辛い。
「お前はここで待ってろ。」
「え??」
「木、集めてくる。魔法で火を作ればいくらか温まるだろ。」
「あ、じゃああたしも行くよ。」
「…馬鹿。その身体でまた外に出るのか。大人しく休んでろ。」
「……うー…。」
「いいな?」
「……分かった〜。」

あたしの返事を確かめると、ダースは外へと出て行った。
……多分、ダースなりのあたしへの気遣い。その心は嬉しい。けれど――…。

(…なんか……いやだ……。)

――これはやっぱり、ダースなりのあたしへの気遣いなんだろう。
だけど……また、あたしが足を引っ張ってるようで、物凄く、哀しくて、辛かった。

(あたしっていっつも足引っ張ってばっかりだ……。)

プラチナがいた頃だってそうだ。
何もできずに、無能なあたしは二人の背中ばかりを見つめていた。
こんな自分が、本当にムカつく。
(……プラチナ…。)
今、あなたがいたら、あたしを励ましてくれるのかな。
一人で背負い込まないで。って…いつもの微笑を向けてくれるのかな。
だけど――今プラチナはいない。

……生きてるかどうかさえも、わからない。



考えれば考えるほど辛くなって、溜まらなくなって目を堅く閉じた。
「……おい、落ちこぼれ?」
「あ……ダース…。」
深く、考え込んでしまっていたのだろうか。
今行ったばかりだと思っていたダースが、もう帰ってきた。
両手には拾ってきた木や枝を抱えている。結構な量で、あたしも手伝えばよかったな、と後悔した。
…すると、あたしの考えている事がわかったのか、
コホン、と咳をしながらダースは『俺は俺がしたかったことをしただけだ。』と呟いた。
こんな時にまで色々ムカつくダースは、本当にムカつく程優しくて、どうしようもない程自分が無力に感じた。










「あーあったかー……。」
「…なんだ、随分ババくさいな…。」
「う、うっさいわねー!今の今まで濡れてたんだからしょーがないじゃないー!」
「まぁ、そうだが……。」

そんなこんなで、洞窟の中でぼんやりしているとあっという間に夜になった。
こんなにのんびりしていてもいいのかな、と焦りの気持ちも沸くけど、夜になっても外は雨が激しい。
迂闊に動いても効率がないと言うダースの言葉に、今日は今晩の食料だけ採りに行き、後は体力温存することになった。
「それにしても服…きもちわるいなぁ……。」
「………あぁ…。」
あたしもダースも、先ほどの惨劇から今の今までの所為で濡れてビショビショだ。
かと言ってこんな風に漂流するとは思わなかったし、着替えとかは船の中――いや、今は海の奥底かも。
そんな訳で、今はこの私服だけ。…脱いで乾かすって言う手段もあるっちゃあるけど――……。
(ダース…いるし……。)
まさか、こんな所で脱ぐ訳には――…うん。
「……落ちこぼれ。」
「ん??」
そんな事を思っていた時、いきなりダースがあたしに話しかけてきた。
不思議に思って訊くと、
「その――脱げば…。」
「……………は!?」
「あ、違――!!」
「……インテリ眼鏡の正体は…ムッツリスケベ……!!??」
「言ってる意味が分からん!とりあえず落ち着け!!」
そう叫ぶダースの顔は真っ赤だ。
……突然のダースの発言で、動揺したあたしの顔も赤い…けど。
「俺はあっちを向いているから。服を乾かすといい。」
「………襲わない?」
「だれがお前みたいな落ちこぼれ…!!」
「あ、言ったわねー!?ダースの癖に生意気よー!!」
「その理屈がさっぱり分からんが。」
「うぅ……!!」
だけど折角のダースの好意だし、服も乾かしたいし……。
「…じゃ、脱ぐから、本当に見たら殺すわよ?」
「元々見る気はない…っ!」
そのダースの言葉を信じて、必要最低限を残しながらも服を脱ぐ。
…でも流石にこっちはこっちで寒い。
「……ダースー。」
「………なんだ。」
「手。」
「ああ。………あ??」
ダースが聞き返す前に、あたしはダースと背中合わせになりながらもダースの片手を握る。
「こうしてればちょっとは温かいかなーって。」
「ば……馬鹿か。温かくなるのは精々指先だけだ。それは。」
「そうなの?」
「……当たり前だろう。」
「………まぁいいや。」
何故だか動揺するダースをあまり気にしないで、その背中にもたれかかる。
ダースの濡れた服が、少しだけ冷たい。
「ダースも乾かせばいいのに…。」
「1日経てばこんなの乾く。大体――流石に男女二人とも服を着ていないのは…問題だろう…。」
「な…!へ、変な事言わないでよっ!!」
ダースの変な発言で、妙に意識しちゃって、たまらなくなって俯く。
それでも、手はしっかり握ったまま。
「……あ、あたし…もう寝るね。」
「あ…ああ。」
「……おやすみなさい…。」
背中合わせに座ったまま、静かに目を瞑る。
広いダースの背中を枕代わりにして。
「………朝になっても、あたしが起きるまで振り返らないでね。」
「…くどい。」
「……えへへ。」


ぶっきらぼうなダースに安心して、あたしは眠りにつく。
そして、深い暗闇の中で、またあの時――あの試験の時に夢に出てきた、薄紫色の髪をした少女が見えた。
何かを喋っている。けれど、その言葉を聞き取る前に、あたしは深い眠りへと落ちていた。


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あとがき。
無人島に辿り着いたアシャンとダース。
うおお、男女二人で無人島ですよ…!エロにならないように頑張りました。(……
だ…だって……ねぇ……?(何
ダースは憎まれ口こそは叩くけど、今もこれからもアシャンの絶対的なパートナーです。