――翌日



「…ん〜……。」
洞窟の狭間から差し込む暖かい光に目が覚める。
ここは――……そうだ、昨日漂流して無人島に辿り着いて、洞窟で雨宿りして寝たんだった。
で、雨に濡れて気持ち悪かったから服は脱いで乾かして―…。
「……!?」
あたしはそこでようやく自分が服を着ていないことに気付く。
「ふぅ…やっと起きたか。」
「ぎゃあああっ!?ダース!?」
「なんだその化け物でも見たかのようなリアクションは。ストレートに腹立つぞ。」
「あああっ、あたしの身体見てないでしょーね!?」
「ばっ…!見るわけないだろう!価値もない…!」
「か、価値がないですって!?」
そーですけど!どうせ発展途上中ですけど…!!
でも、無人島で男女二人きりで…女の子が服着てない…ってスゴイ意識しちゃったんだよ、悪いかっ。
「そんな事はどうでもいいから早く着替えろ!俺はいつまで後ろ向いてればいいんだ。」
「……あ。」
慌てたようなダースの言葉にあたしは思い出した。
そっか、ダースわざわざあたしの状態を考慮してあたしが起きるまで背中合わせのままでいてくれたんだ。
「ごめんごめんー。…おぉ!服乾いてるっ、すごーい!焚き火効果バツグン!!」
昨日までびしゃびしゃに濡れてた服が一日で乾いてる事に思わず感心してそんな事を呟くがダース、ついにはノーコメント。
…ちぇー、少しくらいオーバーなリアクションで対応してくれてもいいのに。
「着替え終わったか?」
「うん、おっけー!」
着替え終わったあたしに、ダースはやっと顔を見せた。
その顔は明らかに『お前着替えるの遅いんだよ』と物語ってる。
「…あ。」
「…?」
そんな、今日も絶好調に不機嫌そうな顔のダースを見て、あたしは朝の挨拶を忘れてたことを気付く。
「おはよ、ダース!」
「…あ、ああ。おはよう。」
至って普通の言葉にダースは少しぶっきらぼうに返す。
それが今朝の始まりだった。






「とりあえずは朝食だな。」
いつもの眼鏡を掛けながらダースはあたしに向かって言った。
「でもでも、食料ないよ??」
「………馬鹿。」
「な!?ば、馬鹿ですって!?」
「当たり前だろう、だからこの島で食えるような物を探すんだよ。」
「……あ、そうか。」
「はぁ…馬鹿だな、こんな常識的なこと。」
「うぐぐぐ……。」
皮肉を言うダースに返す言葉もなくあたしは唸る。そんなあたしを無視しながらダースは続けた。
「それからいつまでもこの島にはいられないから、丸太で船を作ろうかと思う。」
「わー!サバイバルっぽいね!!」
「っぽいんじゃなくてサバイバルなんだよ。…よくノンキに笑ってられるな……。」
「あ、じゃあじゃあ食料調達と丸太作りに分担するの??」
「よく分かったな、その通りだ。」
やった、ダースが珍しく貶さなかった!…と喜ぶのも束の間、「ま、これで察する事ができなかったらド級のノータリンだけどな。」とダースは付け足した。…まぁそうなんだけどさ。
「あたし、食料調達の方がいいなー!」
「『丸太は重いから嫌〜!』なんだろ?」
「…えへへ、正解です。」
「まぁお前も仮にも女だし、元より力仕事を与えるつもりはないからな。」
うわわ、ダースにしちゃ優しい言葉だ……最初余計だけど。
「そうと決まれば早速しゅっぱーつ!!頑張って美味しいの探してくるよ〜。」
「くれぐれも食えない物は採ってくるなよ。」
軽く嫌味なダースの言葉を背に、あたしは先に洞窟から出た。

(太陽の日差しがまぶしい…。)
昨日は滅茶苦茶な悪天候だったのに、今日は打って変わっての快晴。
空は青いし、海は綺麗だし、これでサバイバルじゃなかったらもっと最高なのになぁ。
(…と、のんびりしてる場合じゃないや。)
そう思ってあたりを見回す。
(昨日は嵐のせいもあったし落ち着いてなんていられなかったけど…。)
意外と色々と木の実が生ってるから、食料に困ることはないかもしれない。
「あ、あと魚とか獲ればいいことだし!」
錬金術も魔術も苦手なあたしだけど、実家の村じゃ魚獲りは大の得意だった。
昔っからあたし、反射神経だけはいいみたい。…全然錬金術士らしくなくて凹んじゃうけど。
「よーしっ、そうと決まれば頑張るぞー!!」
靴を脱ぎ捨てるとあたしは服が濡れるとか、そんなことは一切考えず蒼い海に向かって駆け出した。







――数時間後。


「……手づかみで?」
「うん。」
「………お前が?」
「え…あたししかいないじゃん。なんで??」

そろそろお腹が減ってきたなーと思ってきた頃、丁度作業を一時中断させようとしたダースと合流し、浜辺で昼食をとることとなったんだけど……ダースはあたしが用意した魚を見るなり絶句となった。
それから少ししてから、難しい顔で一言呟く。
「…こんな才能が錬金術の方面にもあれば、な……。」
「う!ちょ、ちょっと。それは思っても言わない約束よ!!」
くそう、人がさっきまで気にしていたことを〜っ……まぁ…事実なんだけどさぁ…。
ほんの少しの憎しみを込めてダースを睨むが大して気にした様子はなく、無言で魔法で炎を創りだし魚を焼いた。
「……うーん、こうして見ると安っぽい魔法の使い方ね〜。」
「お前にだけは言われたくない台詞だな。…ほら、焼けたぞ。それとも生のままがいいか?」
「え!食べる食べる!!生はやだー!」
慌ててダースから魚を奪うとそのままかぶりつく。
「…うーんっ、お腹すいてたこともあって滅茶苦茶美味しいわ〜……♪」
「ほんとお前は、ノンキでいいな。」
幸せに浸るあたしを見て、ダースはまた溜め息を吐いた。



「……そういえば、」

お互い昼食を終えたところで、ダースが話を切り出してきた。
ダースから話題を持ってくるとは珍しいなと思って「ん?」と聞いてみると、ダースは続けて、
「気になる物を見つけたんだ。」
「…気になる物?」
「ああ、さっき風魔法で樹を切って…ここに戻りにくる途中で一つのトランクを…。」
そう言ってダースはここより少し離れた浜辺に目をやる。
するとそこにはダースの言うとおり、黒いトランクがあった。…もしかすると……
「あれって…津波に巻き込まれた人のかな、やっぱり。」
「恐らくな。…そこで、不本意だが鞄の中身を確認しようと思ってそこに置いていたんだ。」
…なるほど。
確かに、他人の鞄だし開けるのは気が引けるけど……こんな状況だもんね。なんか役立つもの入ってるかもしれないし。
「さて、ひと段落した所で俺はトランクの中身を確認してくる。」
「あ、待ってよ、あたしも見る〜!ダース一人だけじゃ危ないでしょ!」
「…別に中身確認するのに危ないも何もないと思うが……。」
「十分危険よ!中からモンスター出てきたり爆弾出てきたりしたらどーすんの!?」
「………。」
しばしの沈黙の後、「漫画の読みすぎだ。」と突っ込まれてしまった。
…まぁそんなこんなであたしもトランクの中身を見る事に。正直何入ってるのか気になるしね!
それにしても…。
「一見フツーの大きめのトランクよねぇ…。」
「開けるぞ。」
ダースの言葉にあたしは息を飲んでトランクを見つめる。

…ゆっくりとトランクが開けられ、黒い物体が視界に入ってきた。
――そして。
「…こ、これは……。」
「……ぐーすか…ぐーすか……。」

中に入っていたのはモンスターでも爆弾でもなく。

「ね、猫ぉ!?」

綺麗な毛並みを持った一匹の黒猫でした。







黒猫はトランクの中ですやすやと寝てる。
たまに「もう食えねー」とか「しぬー」など寝言も…。
つーか喋ってる……!?
「ね、猫が寝言言ってる……。」
「ほう、なかなか貴重な実験材料になりそうだな。……アシャン?」

「ば、ば、化け猫〜〜〜ッ!!!??」
「だーっ!!誰が化け猫だ誰がッ!!」

たまらなくなって叫ぶとそれまですやすや寝てた黒猫が起きて叫んだ。
それもまた、フツーの言葉で……。
「あーよーく寝た!どっかの誰かの叫び声で起こされたけどな。」
猫はそう言うとあたしをかるーく睨んだ。
ひいいいっ、猫が喋ってますよっ、どっからどう見ても猫ですよっ…!!
「それはそうと、お前は何者だ?」
状況が呑めずあたしが口をパクパクさせてると、ダースが真っ先に訊ねる。…っていうかなんでダース驚かないの!?
ダースの質問に黒猫は「なかなか良い質問だな」と偉そうに仁王立ちした。
「化け猫とか言ってたそこの女ぁ!よーく聞いとけ。オレサマはズバリ、猫じゃなーい!
こう見えても元は人間だ。死んだ身だから人間の姿を取れるのは限られてるからしかたなーくこんなカッコしてるワケ。」
「ふむ、つまるところ正体は?」
納得のいかない顔でダースは更に追求する。…猫と話してるよこの人……。
すると本当は人間だと言う黒猫はニッと不敵そうに笑って続ける。
「聞いて驚け!オレサマの名はクロロン!魔法使いの高等使い魔だー!ニャハハハッ」
どーだすごいだろう参ったか小娘。など、クロロンと名乗った猫は高笑いしてる。
……なんだかあたし…頭痛くなってきたわ……。

「見た所お前等も漂流者ってとこみてーだな。ってか、お前等の名前は?」
「俺はダース。こっちの頭の弱そうな女はアシャンティ。…それより、お前らもって事は…お前もか?」
「まーな。主人が旅行に行くってんでこのオレサマを一人家に置いてこうとしてさー!
そんなの許せねー!って思ってこのトランクに身を隠してたらなんか船がガタゴト揺れ始めて今に至るワケ。」
漂流者…もとい、漂流猫。
姿は違えど、状況は同じみたいだ。…よーし!
(いつまでも化け猫だって恐がってちゃいかん!
人と言う字は重なってできてるんだからこーゆーサバイバルな時こそお互い協力しないと!)
「おわっ!?」
意気込むとあたしは黒猫――もとい、クロロンを抱き上げた。
クロロンは不服そうな顔であたしの顔を見つめてる。
「な、なんだよ……?」
「同じ漂流者って事で宜しくねクロちゃん!これからは3人で頑張って島を脱出しよ!」
「は…はぁ!?クロちゃんだと!?クロロン様と呼べ!」
「えー、カワイイじゃない。クロロンって呼びにくいし。」
「だーっ!オレサマは高等な使い魔なんだぞ!?ちゃん付けなど許されるものかー!!」
「あ、痛いって痛いって!折角仲間になるんだし引っかかないでよ〜!」
「いつお前らの仲間になるって言ったんだよ!とりあえずお・ろ・せー!!」
クロちゃんがジタバタと暴れ爪を立てる。
そんなあたしとクロちゃんの様子をダースが呆れたような目で見てた。



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あとがき。
約一年ぶりの更新…。(ぇ
アトリエのマスコット(?)クロの登場です。(笑
パーティにマスコット的存在が出来たアシャン達。さてさて次はいよいよ島からの脱出を試みますー。