駆けるあたしの目に映し出された『魔術・錬金術科』と書かれたプレート。
そのプレートを確認するとあたしはガラガラッ、と慌しくクラスのドアを開け駆け込む。
それと同時に聞こえてきた予鈴のチャイムの音。……はぁっ、セーフティ……!
「あ、アシャンおはよー。」
「おはよっ!…先生……はいない…わね。」
あたしを見るなりクラスメイトが挨拶してくれた。
息を切らせながら入ってくるあたしを見て驚く人は居ない。
それは勿論、これが日常茶飯事の光景だから。

「……はぁっ、とりあえず……ギリギリセーフっ……!!」
「ギリギリセーフ、ではありません。」
「………、」
ほっ、と胸を撫で下ろすのも束の間。
嫌〜な声が聞こえて、あたしは恐る恐る振り返った。
そこには、きりっとした綺麗な女の人。
「……ふぃ、フィリー…せんせ。」
「チャイムが鳴ってから席に着くまで5秒。遅刻です。」
「ち、遅刻に入るんですか!?」
「当たり前です。」
あたしの言葉に、先生は即答した。
フィリアス・ルナムーン…厳しくて、あたしの苦手な先生だった。
(それにしてもたった5秒席につけなかっただけで遅刻なんて……。)
チャイムには間に合ったんだし、おまけしてくれてもいいのに。
フィリー先生のHRと授業…今度から余裕持って行こ。…とほほ。
「はぁ〜………。」
「アシャン…大丈夫?」
溜め息を吐きながら机に突っ伏すと、綺麗な声が聞こえてきた。
声の主は顔を見なくても分かる。
「……プラチナぁ…。」
「あはは……朝からお疲れ様。災難だったね。」
そして、朝の失敗を忘れさせてくれるような癒し系な微笑。
見ようによっちゃ女の子にも見えてしまう、同級生のプラチナ・ガーネットだった。
「あーあ…結局欠席扱いになっちゃった…。」
「ドンマイドンマイ。これから挽回すればいいんだよ。」
「……うん、ありがと。あたし頑張るッ!」
プラチナの笑顔で癒された所で、気合を入れてガッツポーズを取る。
「…かく言う僕も朝は苦手だからピンチなんだよねぇ…。」
「え……そなの?」
「そうそう。アシャンは女子寮だから知らないだろうけど…僕の寝起きの悪さはさ。」
言いながら、プラチナは右斜めの席の少年に目を向ける。
眼鏡をかけた、インテリぶったやーな奴…。
ダース・シルヴィル。あたしとダースは、物心ついた頃から犬猿の仲だった。
「ルームメイトが、よーく知ってるよ。」
クスクス、と笑いながらプラチナが言った。
……ああ、そういえば。
プラチナとダースはルームメイトでありながら、親友だったんだ。
天使みたいに優しいプラチナと、悪魔みたいに腹立つダースの組み合わせは、
あたし的には少し信じられないんだけど。
「そこ、私語を慎みなさい。」
「はっ……!!」
「あはは、やっちゃったねー。」
フィリー先生の鋭い視線に怖気ずくあたしに、プラチナは苦笑した。
そんなあたしとプラチナを見て、ダースがチラリとこちらに視線を向ける。
そして……溜め息。
ば、馬鹿にされてるのだけはわかるわ〜〜っ………!!

「災難だったな、プラチナ。」
「……ぁ、ダース。」
一時間目終了のチャイムが鳴る音と同時に聞こえてきた嫌な声。
嫌な声の主はプラチナに話しかけてた。……何となく、嫌な予感。
「わざわざこんな落ちこぼれに付き合わなくてもいいんじゃないか?」
……ブチ。
「え、あ……アシャンの事?別に、僕は友達だし……。」
「……そうやって甘やかしているからまたすぐつけあがるんだ。」
………ブチブチ。
「ちょ、ちょっとアンター!!人が黙っとけば何言ってんのよぉ!?」
「ああ、落ちこぼれ。聞こえてたのか。」
インテリ眼鏡…ダースの嫌味に耐え切れなくなって声を上げる。
大体ね、人の悪口言うのは結構ですけど、わざわざあたしの席の斜めでやんないでよっ!!
「事実だろ。お前のせいでプラチナの成績にひびいたらどうするんだ。」
「そ、それはぁ………。」
「わ、僕なら大丈夫だよ?二人が気にしなくても……。」
「……プラチナ。」
口元を微笑ませながら言うプラチナに、ダースは呆れたような顔をする。
その視線は明らかに「お人よしだな」と物語ってる。
「とにかく、いいの!僕はアシャンともダースとも友達なんだから、
もし二人のせいで成績落としちゃっても大丈夫。だからほら、仲直りしないと。」
そこまで言って、プラチナはこれ以上にないってくらい満面な笑みを浮かべた。
……そして、無言になるあたしとダース。
しかし、あたしもダースも、プラチナには何故か逆らえない。
「……悪かったな落ちこぼれ。相手にした俺が馬鹿だった。」
「………最初から謝る気ないでしょ。」
「まぁまぁ二人とも。」
再び喧嘩が始まるか、って所でプラチナが苦笑しながら制止させる。
…いつも思うけど、あたしがこーんなムカつくダースとコミュニケーションが
取れてるのは九分九厘プラチナのお陰だと思う。
「アシャンティ。」
「ほぇ??」
そんな事を考えていると、休み時間の筈なのにフィリー先生が教室に入り、あたしに声をかけてきた。
「ちょっと来てくれるかしら?」
「あ……はい。」
「ああ……そうそう、ダースも一緒に。」
「え。」
「……俺も、ですか?」
あたしが呟くのとダースが口開くのと、ほぼ同じタイミングだった。
たぶん、ダースもあたしと同じ事を思ったんだろう。
何で落ちこぼれと主席が?……と。
あたしとダースの疑問をよそに、フィリー先生は「ええ、二人に話したい事があるの。」と呟いた。
あたしは困って、プラチナに目線でどうするべきか訊ねる。
するとプラチナは「じゃあ僕待ってるから。」…と、一言。
どどど、どうしよー!?プラチナいないのにあたしダースと二人でなんて耐えられないよぉ!!
「……はぁ。とりあえず、行くぞ。」
「う、うん……。」
「行ってらっしゃーい。」
それだけ呟くとあたしとダースは憂鬱な気分で教室を出る。
プラチナだけほえほえ笑いながらあたしとダースを見送ったけど…
…今日ほどプラチナの笑顔を憎んだことはないわ。


黙々と廊下を歩いていると、ふとフィリー先生が足を止め、あたしとダースも立ち止まった。
「フィリー先生?」
「ごめんなさい。ここまで来てもらって言うような用事ではないのだけれど。」
そう言うとフィリー先生は振り返り、あたし達の顔を交互に見る。
それから手に持っていた紙を黙ってあたし達に見せた。
……って、こ、これってっ……!?
「…錬金術ペーパーテスト…アシャンティ・シルフィース……15点…?」
「きゃ〜〜っ!!??こ、ここここれは前回のペーパーテストのっ!!??」
文字を読み上げるダースの声が、明らかに呆れている。
それは紛れもない、あたしの赤点ペーパーテストで。
「見ての通り、今回の筆記試験もアシャンティは悲惨な点数でした…。」
「……う。」
「…もはや何もいえないな。」
フィリー先生は悲しそうに溜め息を吐いた。
ダースもこの点数にはフォローのしようがないらしく、ただ黙ってる。
……うう。視線が痛い。
「…そんなに私達教官の教え方が悪いのですか…?」
「いいえっ!そんな訳じゃっ……。」
「ああ…先生、大丈夫です。先生が悪いのではなく、こいつに理解力がないだけです。」
「ちょ…ダースっ!!?」
「否定できるのか?」
「………。」
ダースのさり気ない一言にあたしは黙り込んだ。
嗚呼…その一言一言がグサグサと胸に突き刺さるわ……。
「……、兎に角。」
微妙に嫌な空気を察してくれたのか、フィリー先生が話題を変えようとする。
……が、次のフィリー先生の言葉によって、あたしの人生は変わった。
「ダース・シルヴィル。魔術・錬金術科の主席の貴方に折り入って頼みがあります。」
「……俺に、ですか?」
「アシャンティ・シルフィースの指導兼お目付け役となり、アシャンティの成績を上げてください。」
「「…………………は?」」
ダースは勿論、あたしも思わず聞き返してしまった。
何の前触れもないフィリー先生の突然の言葉に、どう反応すればいいか。
っていうよりは、フィリー先生が何を言ってるのかがいまいち分からない。
ダースが、あたしの……お目付け役………!!??
そこまで考えた所で事態を把握した。
「「冗談じゃないですよっ!!??」」
「あら。」
「何故俺がこいつを!?」
「なんであたしがダースに!?」
「見事なハモり具合ですね。私は良いパートナーになれると思うのだけれど。」
「「冗談じゃないですよっ!!!!」」
フィリー先生の突飛な一言に、あたしとダースは再びハモる。
こ、こんなインテリ眼鏡と…あたしが…良いパートナーになれる……ですって!!?
「……はぁ。」
あたしが再び反論しようとした刹那、ダースが一つ溜め息を吐いてから口を開いた。
「……分かりました。」
「だ、ダース!?」
「俺がこいつを責任持って面倒見ます。」
ダースの返事はかなり予想外で、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
フィリー先生は満足そうに微笑みながら「頼みましたよ。」とだけ言うと去っていった。

……そして残されたのは犬猿の仲であるあたしとダース。
「……まぁ、そんな訳だ。」
「どーゆー訳よ!?」
「お前の突飛な行動は俺が責任持って慎ませるし、勉強も俺が責任持って面倒見てやる。」
結構よッ!!!
なんて心の中で叫んだけど、先生の命令上反論なんて出来る訳もなく。
「まぁ宜しくな、落ちこぼれ。」
………こうして、あたしの人生はこいつに支配される事になってしまった。
なんとなく大げさなのは気にしない。
「………はぁ。」
後には、溜め息だけが残った。


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あとがき。
ダースとプラチナはこのお話のメインキャラです♪
この二人は最初っから最後まででしゃばるかな…。(特にダース/笑
ダースは一応アシャンの公式なCP相手なのですが、
恋愛要素は薄めになると思うのでCP要素があるかは分かりません。(哀