ダースがあたしのお目付け役に選ばれてから、約一週間……。
「おい、落ちこぼれ、ここ間違ってるぞ。」
「……うう…。」
「馬鹿、違う。…ったく…どうしたらこういう結論にたどり着くんだ。」
「馬鹿で悪かったですねー!!??」
「ま、まぁまぁアシャン……。」
…あたしは今日も、ダース(…とプラチナ)に勉強を指導してもらってた。
……もらっていた。と言うよりは、されていた。
なぜなら、ダースの教育はすっごくスパルタで。
あたしはもうしたくないんだけど……先生の命令上で、仕方がなく……。
「ダースももうちょっと優しく教えてあげなよ。これじゃ可哀想だよ。」
「落ちこぼれにはこれくらい厳しくしつけないとダメなんだ。」
「…………、」
そう言うダースは、まるでペットにしつけでもしてるかのよう……。ううっ。
「付き合いきれないな。…さて、俺はそろそろ帰るかな。と言う事で、今日はお開きだ。」
「ほんとっ!!?」
「ただし…寮に帰ってからテキストの42Pを予習しとけ。今日やった所だ。」
「……はぁい…。」
宿題も用意するなんて…なんて準備の良すぎる……。
そんなダースのせいで、ここ最近のあたしの生活は勉強にまみれていた。
「じゃあな。ああ、そうそう。もし宿題をやらなかったら……課題が増えてるのは当然知ってるよな?」
「…………はい。」
「わかってるならいい。…じゃあな。」
一言だけ呟くと、ダースはあたしに背を向けた。
プラチナはあたしとダースを見ておろおろしていたが、やがて鞄を持つとダースの後ろをついていく。
「アシャン、辛くなったらいつでも言ってね??僕も、できるだけ協力するから…。
あ、あと…ダースならいつもこんな調子だし気にしなくて大丈夫だよ。」
「……ありがとうプラチナぁ……。」
心の中で号泣するあたしに優しく微笑むと、プラチナはダースと一緒に帰っていった。
…あなただけだわ、心の支えは。
「…さて、あたしも帰って勉強しなきゃぁ……。」
うう…最悪。ダースがいなかったら寮帰って目いっぱい遊んでるところなのに…。
…でもこれも錬金術士って言う夢の為!…がんばらなくっちゃっ。
「……さて、今日皆さんを講義室に呼んだのは他でもありません。」
……後日。
フィリー先生に講義室に呼ばれたあたし含む魔術・錬金術科の生徒は、
通常の教室よりやや広い講義室の教卓にいるフィリー先生の言葉に耳を傾けた。
「私が担当する魔術・錬金術科は本年度から実習授業を取り入れる事となりました。」
「……実習授業?」
「きっと、実際に薬とかを調合してみるんじゃないかな?」
声をひそめ、首を傾げるあたしに、プラチナは小さく囁くように言った。
「ほら、最近は魔術士や錬金術士って言っても、将来仕事に利用する人とかもいるし……。
実戦で慣れさせようとしてるんだよ、きっと。」
……なるほど。
今のご時世、例えば錬金術を利用する医者とか、魔術の動力を利用して店を営業する。とか多いからなぁ。
一人で納得していると、フィリー先生は大きめの黒板に、白いチョークで文字を綴った。
あたしは声を潜めながらその文字を読み上げる。
「……スリーマンセル制度?」
「三人一組、って事か。」
フィリー先生の黒板で書いた言葉に、真っ先にダースが反応する。
スリーマンセル…三人一組、って意味なのか。
じゃあ……えーっと。三人一組で班を作って、その班で実習する、って意味なのかしら。
「大半の生徒はこの文字を読んで理解したとは思うけれど、三人一組の班を結成してもらいます。
期限は今から3日以内。班結成の基準は問いません。仲の良い者同士でも構いませんよ。」
仲の良い者同士、って言葉にクラスの大半の生徒は安堵のため息を吐いた。
しかしその様子を見逃すフィリー先生でもなく。
「ただし、失敗した班で成績に響くのは貴方達自身です。
…そうそう、スリーマンセル制度は三人の中の一人でも成績を下げてしまうと後の二人にも影響が出ますので。」
ええええっ!!!
あたしは勿論、その場に居た大半が嫌そうな顔をする。
それでもフィリー先生は涼しげな顔のまま動揺する事がない。…さすが鬼畜、フィリー先生。
じゃあクラス一の落ちこぼれであるあたしが入る班って殆ど単位取れないじゃない!?
……希望がなくなってきた。うう……。
「ああ、そうそう。」
希望をなくすあたしに止めをさすように、フィリー先生は口を開いた。
「尚、アシャンティ・シルフィースは強制的にダース・シルヴィルと同じ班にしますので。」
「「な、何―――ッ!!??」」
ごくごく普通に喋るフィリー先生の言葉に、あたしとダースはまたもハモった。
何となく予感はしてたけど、ダースと同じ班にされることくらいッ!!
しかしそうなると、迷惑するのはダースの方で。
「………。」
だ、ダースの視線がかなり痛い。
その視線は、思いっきり「お前の所為で俺の成績が落ちたら絞め殺すぞ」とでも言ってそうな…うん、間違いない。
「ま、まぁまぁダース……。」
痛いその視線に気づいたのか、傍にいたプラチナがなだめる。
「僕も入るよ。僕の実力はアシャンとダースの中間くらいだから…アシャンの成績、頑張ってカバーするし。ね?」
「……すまないな。」
優しいプラチナの言葉に、ダースはころっと態度を変えた。
有難うプラチナ……!あたし、何とかダースに殺されず済みそう……!!
「では…ダース班結成ですね。」
あたし達のやり取りを見ていたフィリー先生が一言呟く。
……あ、早速班作っちゃった。…ほぼあたしの所為なんだろうけど。
他の生徒達はどういう基準で班を作ったらいいか迷っているらしく、あたし達を
羨ましげな目で見ている。…そ、そんな目で見ないでっ。あたしだって本当はダースなんかとは……っ。
「ちょっとどーゆー事よアシャンティッ!?」
「……へ?」
休み時間。
学園の廊下を歩いていると突然甲高い女の子の叫び声が響き渡り、あたしは振り返った。
そこにいたのは、ブロンドのさらさらした髪に可愛らしいリボンをつけた少しきつめの瞳をした少女。
……クラスメイトのマリアーヌ・ローズレイクだった。
「マリア?ど、どうかした??」
「どうかした、じゃなくってよっ!折角私がプラチナ様と組もうとしたのにっ!!」
「…あー……。」
な、なるほど……さっきの班のことか……。
「おまけにダース様まで取られちゃうしっ!」
い、いや…あたしだって出来る事ならダースをあんたと組ませたいわよっ!
心の中で叫ぶが、もう遅い。ダースはあたしのお目付け役って事になってるので、
あたしが何を言おうがこの班はきっと変わらないだろう。
何故かマリアはプラチナとダースのファンで、いつもその二人とつるんでるあたしを
ことごとくライバル視していた。……別にあたしはこの二人に恋愛感情はないんだけどなぁー。
「信じられないっ。この私があなたより早く班を作れなかったなんてっ!」
「いやいや、さっきのは半強制的に作られたもんだし気にする程じゃ……。」
「同情なんかいらないわよっ。」
何故か涙ぐみながらマリアが叫ぶように言う。
そ、そんな泣かなくても……。
「いいこと、アシャンっ!あなたの所為でダース様とプラチナ様の成績が下がったら容赦ないんだから!」
「あ……。」
「あなたを倒すのはこの私なんだからねっ!!」
ビシィッと指差し、それだけ叫ぶとマリアはすたすたと歩き出した。
その途中、廊下を歩いていたダースとプラチナを見つけ「ダース様〜♪プラチナ様〜♪♪」
と、コロリと態度を変えたのには思わず苦笑してしまった。
(それにしても…。)
あたしの所為でダースとプラチナの成績が下がっちゃう……。
それはあたしもちょっと、気にしていた事だった。
(…ダースは個人的にムカつくけど……。)
プラチナにはいつもお世話になってるし、これ以上迷惑なんて掛けられない。
それにあたしの所為で二人の足引っ張っちゃうのは個人的に許せないし……頑張んないとっ!
……って言うか。
(最後の一言は前の言葉と関係ないんじゃぁ……。)
相変わらずなマリアの態度を思い出し、思わず笑ってしまった。
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