「さて――……再び此処に集まってもらった訳ですが。」
チームを結成してから数日後。
再び講義室に呼ばれ、あたし達はフィリー先生の話を聞いていた。
その内容は、言われなくても誰もが少しは把握している。
「いまから、第一回目の実習授業を行います。」
(やっぱり……。)
フィリー先生の言葉に、みんな動じることはない。
そろそろ始まるかな、とは思ってたけど……。どんな課題が出るのかしら…。
「第一回目…と言う事で今回の課題は易しめです。今から配る資料に乗っている薬草等を使って
 一番簡単なポーションを作りなさい。作り方は問いません。」

「ふん……。」
その言葉に、あたしの隣にいたダースは鼻で笑った。
う、うわ……すっごい余裕な態度だぁ……。
「その程度なら楽勝だな。」
「…何かムカつく態度ね。」
「本当の事を言ったまでだ。…この課題ならお前に足を引っ張られなくて済みそうだ。」

……ぶち。

あたしの中で何かが切れそうになったけど、プラチナがすぐにあたしを止めたのと
フィリー先生がこちらを見て「こほん。」と咳をしたので頑張って冷静さを保った。






「ふーん、期限は明日まで、かぁ……。本当に大丈夫なの?ダース。」
「ああ……この資料内の材料を用いたもので…作り方を問わないんだったら何通りか知ってる。」
先生から配れた材料の資料を読みながら、ダースを先頭にあたしとプラチナは森を歩く。
「プラチナ。お前も分かるだろ?」
「あ、うんっ。とりあえず二通りは……。」
「基本だしな。……知らないのは落ちこぼれくらいなもんだ。」
「わ、悪かったですね落ちこぼれでっ!」
「本当に悪いと思ってるなら改善する努力をしろ。」
「………。」
ダースのごもっともな言葉に、流石に何も言えなくなってしまった。

……で、何で森を歩いているかと言うと。
とりあえず材料を集める事になって…学園からそう遠くはないこのレピアの森を巡回してる、って訳。
ダースが言うには本当に初級な錬金術みたいで、材料を集めるのはそこまで難しくないみたい。
それで、一番調合が得意なダースを調合係に任せて、あたしとプラチナが主に材料収集係をやってる。
「……あった!」
「え??」
プラチナが驚いたような声を上げ、いきなりしゃがみ込んだ。
いきなりどうしたんだろう?と思い、目を向けると。
「パラケルル草か。」
「うん、これだよね?」
「ああ、すまないな。」
………早っ…!?
プラチナが「良かったー」と笑いながらその変な草を引き抜く。
…ふとダースの持ってる資料に目をやると、確かにプラチナの持ってる草と同じ写真が載ってた。
森に入ってからそんなに経ってないと思うのに、もう一個材料見つけちゃうなんて……。
プラチナって観察力がいいのかな。……あ、あたしって殆ど……って言うか、全然役立たず?
「アシャン?……どうしたの??」
「あ……。」
…いけないいけない。ネガティブになっちゃダメだ!
これから挽回してかないとっ!!
「ううんっ、なんでもない!あ、ダースダース!アレ違うかなっ!」
「馬鹿、お前の目は節穴か。アレはネスの実といって毒をもった木の実だぞ。」
「ま、マジっすか!?」
「あはは、アシャンドンマイーっ!」
……うう、気合入れたそばからやっちゃったよ〜〜っ。
…まぁ過ぎた事にクヨクヨしないっ。次よ次!
「……あ、ダース。見て見て。」
「どうした?」
一人で百面相してると、いきなりプラチナが指差した。
その先には一輪の花が……。…花が、どうしたのかしら。
「カロライナジャスミンか。よし、持っていこう。」
「…かろ……何?ジャスミン?」
「カロライナジャスミンだ馬鹿。」
「ば、馬鹿じゃないわよっ!っていうか何でこれを持ってくの?」
「……はぁ。お前はほんっとう救いようのない落ちこぼれだな。」
一つ溜め息を吐くと、ダースは「これくらい錬金術の道を志す者なら覚えとけ」と付け足した。
それからプラチナが苦笑して、
「花にはね、花言葉って魔法が宿ってるんだ。」
「花言葉…うん、それは知ってるけど……魔法?」
「カロライナジャスミンの花言葉、長寿。
 飲んだ人が長生きできるように…って、ポーションを作る際には良く用いられてるよ。」
「……へぇ〜…。」
は、初めて知ったわ。
そんな思いが顔に出ていたのか、ダースは再び溜め息を吐いた。…悪かったわね、無知で。
「本当は飲んだ人の心を落ち着かせるラベンダーもあれば完璧なんだけど、
 流石にラベンダーは生えてないみたいだね〜。お花屋さんに行けばあるんだろうけど、時間ないし。」
「ちなみにどちらにしても今回の課題、花魔法の使用は大丈夫らしいから花を使っても問題はない。」
「なーるほど……。」
ちょっと思ってたけど、やっぱり二人とも詳しい。
あたしだけが何だか遠い世界にいるみたいだわ〜……。
あたしがちょっとだけ落ち込んでいると、いきなりダースが「…あ」と小さな声を漏らした。
「どうしたの?」
訊くなり、ダースは無言で資料をあたしに見せた後、側に生えていた大きな樹を指差した。
そこにはさっきのネスの実とは違う、綺麗な色した実がなっていた。
「カシスの実だな…。ポーション作りには必要不可欠な実だが。」
「………。」
ダースがそこで言葉を止め、無言でまた樹を見上げる。
………、はっきり言って、高い。
何十年間も育ち続けていると思われる樹はすっごく高くて、頭脳派なダースには少し難しい問題らしい。
「あいにく……僕も運動は絶望的にダメだし。」
「…まいったな……。折角見つけたとは言え、ここまで育った樹に生ってるなんて…。」
「出直そうダース。きっと探せば他にあるよ。」
「………そうだな。」
プラチナの言葉に、ダースは頷いた。
…カシスの実なら、あたしも知っている。
色んな森に比較的多く生ってる実だけど……今の時期、収穫が難しかった筈。
今この実を見逃したら…探すのは困難かもしれない。
………よっし!
「待って二人とも!」
「……アシャン?」
背を向けようとする二人を、慌てて引き止める。
あたしの言葉は意外だったらしく、二人はすこしだけ驚いてあたしを見る。
「あたし頭は馬鹿だけど、運動なら得意よっ!知ってるでしょ?」
「――……それは、そうだが。」
「ま、まさかアシャン……。」
「そのまさかよっ!」
あたしの迷いのない言葉に、プラチナの顔が一気にサァァと青ざめていく。
ダースは顔でこそは表さないけど、それでもあたしを「こいつ馬鹿か?」って目で見てるし。
「よしっ」
「あ、アシャン〜〜!!」
とりあえず二人を無視し、気合を入れるとあたしは樹に手をかけて、少しずつよじ登る。
その様子を見て、プラチナが叫んだ。…もう、心配性なんだから〜。
「やめてよアシャンっ。この樹高いよ、大きいよ!?」
「大丈夫大丈夫ー!このあたしを信じなさい!大船に乗ったつもりでさっ♪」
「むしろ泥船だよー!」
む、失礼なー。よーし、いつも迷惑かけてる分、今日こそあたしの実力って奴を思い知らせてやるんだからっ。
「馬鹿。能無し。とりあえずやめとけ。落ちたら痛いぞ?分かってるのか?」
「ダースもいちいちうるさいのー!大丈夫だってば。」
言葉ではそう言ったものの……うわ。本当。結構高い。
ちょっとだけ登れたけど…下を見下ろすとプラチナとダースが小さく見える。
「やめてアシャンー!下見ちゃダメー!寧ろ今のうちに降りてー!」
「猿も樹から落ちそうだな、今にも。」
「へーきへーき!……ととっ、うわっ!?」
「あ、アシャンー!!??」
プラチナの悲痛な叫びが聞こえた。
……つつ、危ない危ない…っ。やだ、手に汗滲んできちゃった。すべるすべる。
ちょっとだけ下を見ると、プラチナは今にも泣きそうな目でこっちを見てた。
…今もし落ちちゃったら、悲しんでしまうのはプラチナだ。
(プラチナを悲しませたりしないんだからっ。)
ダースの言葉が実現しないように頑張んないとー!

少しずつだけど、カシスの実が近づいてきた。
……あと、ちょっと。
一生懸命手を伸ばす。
「……あっ!」
すると、指先が実に触れた。
あと本当にもうちょっとなのにっ、くそっ、届かないっ!
「と〜〜ど〜〜けぇ〜〜〜っ……」
片手を精一杯伸ばす。……っと。
「と……どいた……。」
思わず声を漏らしてしまった。
精一杯伸ばした片手が、ようやくカシスの実を掴んだんだっ。
あたしは喜びのあまり、思わず自我を忘れて叫んだ。
「採れた!採れたよ二人ともー!」
「す、凄い!凄いよアシャンー!」
「………お、落ちこぼれが……奇跡を起こした……?」
満面な笑みを浮かべ、カシスの実を片手に掴むあたしを見て、
とても嬉しそうにプラチナが、信じられないと言った様子でダースが呟く。
あ、ダースすっごいビックリした顔してる。へへんっ、ちょっといい気分♪
ちょっとだけいい気になってる…と。
「……ぁっ、アシャン!!」
「…うん??」
不意に、それまで笑顔だったプラチナがまた悲痛な声を上げる。
……カシスの実、ちゃんと採れたのに、なんでそんな声出すの??
そう思ったけど…その理由を知るのに、時間は掛からなかった。



―――落ちていく。



あ、あれ?可笑しい。何が起こってるんだろう。
風が速い。身体が浮いているみたい。
……違う。
(あたし………落ちてる??)
…そっか。
さっきの拍子で、手離しちゃって。


…痛いだろうな、地面に叩きつけられるのって。
あの高さだから、あたしもしかすると死んじゃうかも。
そこまで考えた所で、急に怖くなってギュッと目を瞑った。



その刹那。




閉じた瞼。その暗闇の中で、
綺麗な、女の人が視えた。


薄紫色の髪をした、あたしと同い年ぐらいの女の人。



(………貴方は、誰?)




何処かで見たことある。
何処かで、会ったことある?



貴方は―――……。


「「アシャンッ!!!」」

――そこまで考えた所で、二つの声が脳内に響いてきた。





……ふと、風がなくなった。身体が浮く感覚ももうない。
………あ、れれれ??

「――……痛ッ…。」
「アシャン……大丈夫…?」
「……え?」
ダースとプラチナの、辛そうな声にあたしは恐る恐る目を開けた。
そこには。
「……きゃああ〜〜っ!?ふ、二人とも、大丈夫!?なんでたおれてる訳!?」
倒れている二人の上に、あたしは乗っかっていた。
ビックリして思わず飛び退いたけど……や、やだ、どうして!?あ、あたしが樹から落っこちてたんじゃ!?
何が起こってるか分からずパニックになってると、ダースが苛立ちながら起き上がった。
「ったく馬鹿者!無茶しやがって……大体体重幾つあるんだっ。意外に重かったぞ。」
「し、しっつれいねー!!!………、って、え??」
ダースの発言に、あたしはハッとした。
………もしかして…、ダースもプラチナも…。
「あたしを……かばってくれて??」
「あ、あはは……そのつもりだったんだけどさ…どうも不恰好になっちゃって。
 でも、たいした怪我なくて良かったよ。ねぇダース?」
「……ふん。」
いつもどおりの優しい微笑を浮かべるプラチナと、どうでも良さそうに鼻で笑うダース。
「まぁ、カシスの実も無事な事だし、とりあえずは良しとしとこう。」
こほん、と咳をしながら照れくさそうに小さく呟くダースが何か可愛くて、思わず笑みがこぼれた。

こんな落ちこぼれなあたしを支えてくれる友達がこうして傍に居る。
そう思うと、途端に嬉しさがこみ上げてきて。
「二人とも、ありがとっ♪」
「わっ!アシャンっ??」
思わず、二人に飛びついていった。
何となく、押し倒すような形になってしまったけど別に気にしない。
すると案の定ダースは顔を真っ赤にさせた。
「こ、こら落ちこぼれ!離れろ!!落ちこぼれが伝染するだろっ!?」
「言ってる意味がわかりませんよーっだ。」
「わ、わかった!わかったから押し倒すなっ!!」
「あはははっ!」


二人に抱きつきながら、あたしは不意に思った。
いつかあたしと、ダースとプラチナがアカデミーを卒業して、
それぞれの夢を追いかけるようになって、三人バラバラになってしまうことを。

(……それは、嫌だな。)

出来るならば、ずっと三人でいたい。
辛い事も悲しい事も、三人で乗り越えていきたい。
(…ねがわくば。)
こんな楽しい日々が、続いていきますように。
あたしはそう願わずにはいられなかった。


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あとがき。
目を瞑ったアシャンに映った赤紫色の髪の少女。
ただの夢なのか。彼女は一体何者なのか。…結構この話の鍵の存在かも…?
それはともかく、樹を登るアシャンを二人が心配していたのは
アシャン本人ではなく、アシャンのスカート(……)…だ、だったら嫌だなぁ。(笑
で、でもミニスカだし……。少なからずとも心配していた筈です…。(……