「何だかドキドキしちゃうねっ!」
「……そうか?」
「あたし人の調合見るのなんて初めてだよ!」
森の中で。
あたしとダースとプラチナ……ダース班のメンバーは座り込んでいた。
…と、傍からはそう映って見えるだろう。
実際は、森の中で座り込みながらダースが今まで集めてきた材料を元に調合を始めていた。
「あたし達何もしなくていい訳?」
「そうだね。僕達に手伝える事があったら言って?」
「大丈夫だ。お前らには材料を集めてもらった訳だしな。」
調合なら任せとけ。とでも言いたげな態度で、ダースは器の中にカシスの実を入れ、
無言で掏り合わせる。
……何となく、ダースの顔が生き生きしてる…気がしないでもない。
「だ、ダース……?」
「………、」
恐る恐るダースの顔をまた覗き込む。
眼鏡越しの、冷静な瞳。
その瞳の奥に炎が見えた気がしないでもない。
「……ダースって、調合学の授業が一番好きなんだよ。」
「…と言うと?」
「彼…調合の事になると、オーバーヒートしちゃうから。」
「……だから、あたし達に手伝わなくていいって言った訳ね。」
あのダースが珍しく優しいと思ったら、こういう事だったのか。
…ともあれ、何か凄く、レアな物を見てしまったような気がする。これはこれでよしかな。
……でも、かえって調合係がダースだけだとあたしとプラチナはやること何にも無い訳で。
「ダースー…それいつごろ終わる?」
「あともう少しだ。」
さっきからその言葉を聞いてるような気がするんですけど。
待つのがあまり好きではないあたしをチラリと見ると、プラチナは控えめに口を開いた。
「…アシャン、良かったら一緒に散歩しよ?」
「……え??」
「ほら、ダースは手伝わなくていいって言ってるし。気晴らしだよ、気晴らし♪」
そう言うと、プラチナは少しだけ悪戯っぽく笑った。
(ま、間違いなくプラチナ、あたしの事を気遣ってくれてる……??)
…うん、間違いない。プラチナ、普段ならこういう事言わないし……
ここでプラチナの心遣いを無駄にするわけにはいかない、と思い、あたしは頷いた。
そんなあたしの様子を確認するとプラチナはダースに振り返る。
「って事で、ちょっと僕達行ってくるけど、問題ない?」
「ああ、構わない。」
ダースの返事は意外なものだった。
…と言うか、調合に夢中でプラチナの話を殆ど聞いていない感じもあったけど。
とりあえずダースの返事を確認すると、プラチナはあたしの手を引いて森の奥へと歩き出した。
「で、大丈夫だった??」
「……え??」
歩き出してから間もなく、
プラチナがいきなり、そんな事を切り出してきた。
いきなり何かと思ったら、「さっきの樹から落ちたの。」とプラチナが付け足した。
……あー、あれかぁ。
「うん、おかげさまで痛みもないよ!それよりもプラチナは平気??
あたし、思いっきり乗っかっちゃったみたいだけど…。」
「大丈夫だよ、アシャン軽いし。」
「えええっ!?何処がよー!?」
微笑みながら言うプラチナの言葉に、あたしは目を大きくさせた。
だってダースだってあたしの事重いって言ってたし!
プラチナに乗っかっちゃった日には潰れちゃうかとハラハラだったんだよね。
……プラチナ、あたしが憧れちゃう程すっごいか細いし。
「…あ、アシャン。僕の身体の事考えたでしょ。」
「う…バレた??」
「もう…これでも気にしてるんだからね。」
「あはは、ごめんごめん……。」
少しだけ頬を膨らませるプラチナを見て、あたしは謝る。
正直、そんな顔されても可愛いだけなんだけど……。
プラチナは、昔から女顔・体力ない・細い…の三連コンボを気にしていた。
「顔は生まれつきなんだから仕方がないにして…。
体力ないのと細いのは、健康的な運動と食生活を送ってたらなんとかなるんじゃない?」
「それなんだけどさ、ガーネットは魔術士の血統でさ…ほぼ魔術に適応した体つきになるみたいなんだよね。」
「………努力はしてるけど、なかなか……ってこと?」
「まぁそんなとこ……。」
苦笑しながら、プラチナが言った。
なるほど……だからコンプレックスなんだ。
「でもこれでも最近は弓術で鍛えてるんだよー。」
「そういえば弓術始めたって言ってたよね。なんでいきなり?」
「え……?」
あたしの問いに、プラチナは意外そうな顔をした。
…あれ?あたし何か変なこと聞いた??
プラチナは暫し黙っていたけど、やがて少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。
「…魔術に飽きた、からかなぁ?」
「…………?」
「……ぁ、小鳥さん可愛いー!」
それだけ言うと、プラチナはあたしから顔を逸らして枝の上に乗っかっている小鳥に飛びついていった。
突然の事で、小鳥もびっくりしたんだろう。すぐ逃げちゃって、がっかりしてたけど、
すぐに「ドジっちゃった。」と少しだけ照れくさそうに笑みを浮かべる。
プラチナには優しい笑顔が似合う。……でも。
あたしは、さっきのプラチナの寂しそうな笑みと意味深な言葉が気になって仕方が無かった。
「……プラチナっ!落ちこぼれ!!」
……その時。
あのクールなダースの慌てたような声が森に響き、あたしとプラチナは顔を合わせた。
「…行こうっ」
「う、うん…。」
ダースが慌ててあたし達の名前を呼ぶなんて……一年に一度あるかないかって程よっ
何…いったい何があったの……?
不安を抱えながら、今まで来た道を走る。
そして、
「ダース?……っ!?」
あたしとプラチナが目にしたのは、想像していなかった光景だった。
見知らぬおじさんが激しく咳き込みながらダースの膝の上で寝ていた。
…あたしには、そんな風に映って見えた。
「ダース…どうしたのっこの人!?」
「さっきその辺で倒れてたんだっ…酷い熱だ……。」
何も知らないあたしからも、その人の容態は痛いほど分かった。
顔が赤くて、呼吸も激しい。ダースが言うには、話す事も出来ない程咳が止まらないらしい。
「…どうしてこんなになるまで……?」
プラチナがあくまで冷静に呟く。
……そういえば。
こんな状態にいきなりなる訳ない。
こんなになるまでに病院にいくのが普通…だとあたしは思う。
おじさんの服装を見ると、どうやら農家の人みたい。
……もしかして、
「病院にいく程のお金……なかった、とか……。」
「……有りうるな。」
「……ゴホッ……ゴホッ……!!」
「っ……思った以上に非常事態だ。…仕方がない。」
おじさんが激しく咳き込むのを見ると、ダースは一言呟くと先ほど作っていた薬を取り出した。
大体製作が終わっているらしく、掏り合わせた液体はろ過され、フラスコに入れられていた。
「折角の薬だが…この際いいよな?」
「勿論よっ……。」
「うん…この人に使ってあげて。」
あたしとプラチナの意見を聞き終えると、ダースはおじさんの口を開けさせると無理やり薬を流し込んだ。
「……これで助かるの?」
「………、」
あたしの言葉に、ダースは黙り込んだ。
それからおじさんの額に手を当て、熱を計る。
「……やはり初級のポーションの効果はこんなもの、か……。」
「え……っ」
ダースの口から漏れたのは、絶望的な言葉だった。
それはつまり、容態の変化はない…と言う事で。
「プラチナっ」
「……うん、わかったっ。」
ダースがプラチナの名前を叫ぶように呼ぶ。
それだけで内容は伝わったらしく、プラチナはワンドを構えた。
それから、目を瞑り治癒魔法の詠唱を唱え始める。
だけど…あたし魔法はあんまり詳しくないけど、確か大きい治癒魔法って詠唱が長かった……筈。
プラチナが詠唱している間もおじさんの咳は止まらない。
(あたし……どうすればいいのっ…?)
ダースは薬を作って、プラチナは魔法を唱えてる。
だけど……あたしはまた、足手まといで。
……でも、ここで呆然と見ている訳にもいかない。
(…今からまた薬作れば、大丈夫かもしれないっ…。)
思い立ったら行動だ。
さっきダースが作った薬の材料を探しに、森の中を駆ける。
ふと、見に覚えのある草が目に入った。
(……パラケルル草だっ!)
少し慌てながらパラケルル草をむしる。
…あとは、カシスの実……なんだけど。
(どうしよう……もう…生ってる樹が見当たらない……。)
あたしがさっき採ったのが最後だったんだろうか。
あちこちに実が生っているのが分かるけど、カシスの実ではない。
カシスの実があっても、腐りかけている物ばかりで、
「どうしようっ………。」
へたん、と思わず座り込む。
考えれば考えるほど、マイナスな考えばかりが頭をよぎる。
……そこで、あたしはひらめいた。
(先生……!!)
今学校に戻って、先生を呼んだら……!!
急いでさっきの道を戻る。…あたしが森にはいってきた、学園への方向の道だ。
走ってる最中に、ダース達が視界に入った。
「…ダース!あたし先生呼んでくる!」
「………落ちこぼれ、」
行く前に、一言連絡入れよう。
そう思ってダースに話しかけたのに、返ってきたのは小さな声だった。
「……ダース?」
「………、」
不思議に思って聞き返すが、ダースは沈黙した。
…良く見れば、傍で詠唱していたプラチナも暗い顔をしている。
……嫌な予感が、頭をよぎった。
「……ねぇ、ダース…。」
「…………動かないんだ。」
「…え?」
「もう……息が、ないんだ。」
ダースの言葉を聞いて、頭が真っ白になった。
「う、そ………。」
だって、確かにさっきまで咳凄かったけど生きていて。
そんな、生きていた筈の人間が……。
「死んじゃった…の……?」
あたしの言葉に、答える者はいない。
だけど……もう息がない。そんなダースの言葉が、辛い現実を示していた。
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