あれから。
重い足を必死で動かして学校へ戻り、フィリー先生にそのことを話した。
それから色んな先生が現場に来て…遺体は運ばれた。
おじさんの名前は、ロバートさんと言うらしい。
やっぱりこの近くの農業の人で、家も貧しかったみたいで……それから先は、あたしの推測通り。
フィリー先生は、この件はあたし達には重すぎる、って。だから気にしなくても大丈夫です、なんて
言われたけど……やっぱり、あたしにとって、人の死を見るなんて初めてだったから。
(あの時、あたしがしっかりしてたら……命、落とさず済んだかもしれない…。)
脳内に浮かぶのは、そんなマイナスな考えばっかり。
……考えるの、もうやめよう。
寮に戻った頃にはもう真っ暗で、時間は9時を指していた。
…そろそろ…寝ようかな。
考えても、きりがないかもしれない。
一晩眠って、気持ちを落ち着けよう。
(……まって。)
……そうやって、現実から逃げようとしてる?
あたし…もしかして、そうやって自分に嘘ついて、今日の出来事忘れようとしてる?
だとしたら……あたしは何て醜い人間なんだろう。
…激しく、自己嫌悪。
「あ、いたっ!ちょっと、アシャン!」
「………マリア?」
寮の廊下をぶらぶら歩いていたら、聞きなれた声が聞こえてきた。
その声の主はやはりマリアで、マリアはあたしを見るなりズカズカと詰め寄ってきた。
…けれど、今のあたしには誰かと話す気力もなくて、気がつけば弱弱しく笑っていた。
マリアに向けた笑顔がすごく作り物だって、自分でも痛い程分かった。
そんなあたしの顔を見て、流石のマリアも顔をしかめる。
「……貴方、大丈夫な訳……??」
「…え?」
「な、なんでもないわよっ!いい?心配なんてしてないんだから!」
「あ……うん。」
「〜〜〜あのねぇっ!!」
「……?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべてると、マリアがイライラしたように叫んだ。
「貴方がその調子だと、とてつもなくやりにくいのよっ!!」
「……ご、ごめん…。」
「……早く元のおバカに戻りなさいっ!」
「…ありがと、マリア。」
「なっ!?し、心配なんてしてないんだから!!」
あたしがお礼を言うと、マリアは顔を真っ赤にさせぷいっと顔を背ける。
そんなマリアを見て、少しだけ笑うことができた。
……ありがとう、マリア。
なんて、口に出したらまたきっと怒られるだろうけど。
マリアのお陰でちょっとだけ、楽になれた気がするよ。
「――……そうそう、アシャン、貴方に伝えたいことがあって探したのよ!」
「え?どうしたの?」
「…ダース様が呼んでるわ。」
「………ダースが??」
意外な人物の名前が出てきて、あたしは聞き返す。と、マリアは頷いた。
な、なんでダースが…あたしを……??
「だからっ、ダース様だってね!貴方をっ、」
不思議に思ってると、マリアはまたイライラしたように言った。
……ダースだって、あたしを??
「あーもー鈍感なんだから!いいから行きなさいよっ。テラスにいるからっ!」
「わ、わかったっ!」
怒ったように言うマリアがちょっとだけ怖くて、急ぎ足でテラスを目指す。
女子寮と男子寮を繋ぐ中間点にあるテラス。
夜景が綺麗な場所なんだけど……わざわざ何でそんなところに?
色々と不思議に思うことはあったけど、あたしはダースを探した。
テラス周辺は灯りがすくないから、結構暗くてダースが見当たらない。
「……落ちこぼれ。」
「わっ……!?」
不意に。
耳元で囁かれ、驚いて振り返った。
……そこには、ランプを手にしたダースがいて。
「……って、いつの間にいたのよっ!?」
「ちょっとお前を驚かせてみようと思ってな。」
「〜〜………。」
うぐぐ……なんで気配に気づかなかったのかしら……!ちょっと悔しいっ……!!
……と、言うか。
「どうしたの?こんな所に呼び出して。」
「………、」
「…ダース?」
一番気になる事を聞いてみると、ダースは黙り込んでしまった。
それから無言で、星空を見上げた。
あたしも釣られて星空を見上げると…今日の星空はとても綺麗で、無数の星々が輝いていた。
…これを見せに、あたしを…?……んな訳ないか。
「……プラチナが、」
「…え?」
「心配してたぞ、お前の事。」
「………あ…。」
…さっきの、事かな。やっぱり…。
プラチナ、優しいから…心配掛けちゃったかな、とは思ってたけど…。
……どうしよう、またプラチナを困らせてしまった。
いつもお世話になってる分、迷惑かけないように頑張ってたのに…。
「…で、実際どうなんだ?」
「どう……って?」
「だから………、…辛く、ないのか?」
「………それは…。」
思い切った事を聞かれて、あたしは黙り込んだ。
…意外にストレートな言葉に、返答に詰まってしまう。
正直、大丈夫なんて答えるのは嘘をついてしまうことになる。
マリアが励ましてくれてちょっと元気になったものの…やっぱり人が死ぬの、初めて見たから。
(……あたしは。)
小さい頃から夢見ていた、おばあちゃんみたいな錬金術士を。
おばあちゃんは本当に凄くて、どんな病気を抱えた人でもおばあちゃんの作った薬を飲めば治っていた。
あたしは、おばあちゃんがあたしを助けてくれたように、世の困っている人を錬金術で助けてあげたい。
……だけど、現実は夢とは違って。
錬金術の事はぶっちゃけ、ほんの知識しかないし、アカデミーでは落ちこぼれだし。
今日あたしが何の役にも立てなかったのは、そう言った現実を示している。
「……ねぇ、ダース…。」
「……なんだ?」
「あたしさ、落ちこぼれじゃなかったら…あの人、救えたかもしれない。」
「…は?」
「だって…あたし、落ちこぼれで、錬金術士目指してる癖に錬金術できないし…。
まだ知識でしか知らないし……。今日だって、二人の足手まといだった。」
「けど……カシスの実を採ったのは、紛れもないお前自身だ。」
「そうだ……けど……。」
言葉に詰まる。
確かに、そうだけど……。
そうじゃない……あたしは錬金術を使えるようになりたいのに……。
だけどいつも運動とか体術専門で、錬金術は全然できなくて…。
こんな自分が、嫌なんだ。
こんな事じゃあ、おばあちゃんみたいな錬金術士にはなれないって諦めかけちゃってる、自分が。
「お前らしくないな……。」
「…え?」
「お前はいつも、何も考えないで一人で馬鹿やってるだろ。…いきなり普段使わない頭をフル回転させすぎなんだ。」
「………なんか、こんな時まで失礼ね。」
「…一応、励ましてるんだが。」
「……………。」
その言葉にギョッとして、思わずダースの顔を覗きこむ。
コホン、と咳をしながら顔を逸らすダースは、嫌味…なんかじゃなかった。
それにしたって、不器用すぎるその態度に、思わず笑みがこぼれた。
「……何がおかしいんだ。」
「だ、だって……マリアもダースも不器用すぎなんだもん。」
「…っ俺は戻るぞ。」
「あ、ごめんってばー!ダース、怒んないでよー!」
それだけ言うと、ダースは耳まで真っ赤にさせながらあたしに背を向ける。
「…ありがと、ダース。」
「………っ、」
ボソリと呟いたあたしの言葉は見事ダースの耳に届いたらしく、
少しだけ反応するも、ダースは平然を装いながら歩き出す。
罪悪感だとか自己嫌悪だとか、渦巻く気持ちは色々ある。
だけどダースのそんなぶっきらぼうな様子を見ていたらそんな事どうでも良く思えたんだ。
「…よっし!」
気合を入れなおし、ガッツポーズをとった。
…あたし、頑張ろっ。今はまだ、落ちこぼれだけど。
だけどいつか絶対おばあちゃんみたいな錬金術士になる。
だから……今はとことん頑張んないと!
「ダースー!!」
「……今度はなんだ?」
遠ざかっていくダースの背に向かって叫ぶ。
するとダースは少し驚いたように振り返った。
「あたし、負けないよ!頑張って落ちこぼれ克服するから!
そしてアンタがあたしの事落ちこぼれ、なんて呼べないようにしてやるんだから!」
「……それは楽しみだな。」
あたしの言葉に、ダースは口元だけ微笑ませる。
そんな、夜。
――星たちが、あたし達を温かく見ていた。
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