「んー…。」
眠い目を擦りながら、起き上がる。
今日も聴こえてくる鳥の鳴き声があたしの目覚まし。
ちょっとだけ嫌な予感がして、寮の窓から見える学園都市の大時計を見る。
……あ、今日は時間に余裕ある!
「何か、良い事が起こりそうな予感っ♪」
早々に制服に着替えると、あたしはトーストを焼く。
時間に余裕がある程嬉しいことはない。
「ジャムとマーガリンだったらどっちがいいかしら…。」
ジャムとマーガリンを交互に見ながら、どうでも良い独り言を呟く。
そんな事が出来るのも、時間に余裕がある人の特権なのだ。
今日のあたしは一味違う。
早めに食事を済ますと、いつもより少し早めに登校した。
学園の寮と言っても学園から少し遠くにあり、ちょっとした距離を歩く事になる。
「おはよう、アシャン。」
「あ、」
鼻歌まじりに歩いていると、後ろから声を掛けられた。
振り返ると、視界にいつも見慣れている顔が映った。
「プラチナ!おはよ。」
「今日は早いね?何だか機嫌良いみたいだし…。」
「えへへっ、分かるー??」
優等生であるプラチナはいつも余裕持って登校している。
そんなプラチナと朝から会えたのも、早起きできたお陰である。
「……大丈夫そうだね。」
「…え?」
笑いながら他愛ない話をしていると、プラチナは不意に口元を微笑ませて一言呟いた。
聞き返すとにっこり笑って「なんでもない」と言ったけど…。
…昨日の事、気にしてくれてたのかな。
「あ、あの…プラチナ?」
「ん?」
「…ありがとねっ!」
あたしが言うと、プラチナは少しだけ驚いたような顔をした。
いきなり何の事かと思ったのだろう。
それでもすぐに「どういたしまして」と笑顔を浮かべた。
「そういやダースは?」
「ダース?わかんない。朝起きたらいなかったから…今日は珍しく早い登校だなーって思って。」
「へぇー…。」
「でも突然だったからビックリしちゃった。まぁ寝坊しなくて良かったけど。」
「あははっ」
苦笑するプラチナに、あたしは軽く笑った。
当人としちゃ結構笑い事じゃないと思うけど。
朝が滅茶苦茶弱いらしいプラチナは、良くダースに起こしてもらってるらしい。
そんなダースが何も言わず先に行ってしまった日は寝坊する可能性も高い訳で。
「あ、そういえば。」
「ん??」
暫し学園に向かって歩いてると、プラチナが思い出したように呟いた。
「先生が昨日ダースを呼んでた気がする。その用事じゃないかな?」
「…先生って、フィリー先生??」
「そうそう、何の用だろうね?」
あの気難しいフィリー先生がダースを……。
何の用なのかしら…。…うーん、あいつ、ムカつくけど主席だし…あたしには気が遠くなるような話かしら。
……もしかして、昨日の事で…??
「あ、そんなこんなでとうちゃーく。」
「え…わ、早っ!」
「もしかしてアシャン、考え事してた?結構歩いたんだけど…。」
プラチナの呟きに驚いていると、確かにいつしか学園に着いていた。
二人で歩いていると、結構早い。プラチナの言う通り、あたしが色々考えてた事もあるけど。
学園の門の前では相変わらずシア先生が立っている。
シア先生はあたしを見るなり、少しだけ驚いたような顔をした。
「シア先生、おはよー!」
「おはよう御座います、フローシア先生。」
「おーおはよ、アシャンにプラチナ。…プラチナはともかく、珍しいなー。」
「何がですか??」
「いや、アシャンが。」
その言葉を聞いてあたしは暫し考えていたが、やがて納得した。
「もしかして…遅刻じゃないことに驚いてます??」
「あははっ、大当たりー!」
「し、失礼ですねー!いつもいつも遅刻してる訳じゃないですよっ。」
「はは、すまんすまん。まー今日も1日ガンバレや。…今日は良い事あるぜー。」
「……良い事??」
シア先生の発言に再びあたしは首を傾げる。
すると、シア先生は「ふふふー。」と怪しく含み笑いをした。
「行けば分かるさ。俺もう知ってるもーん。」
「は、はぁ……なんだろうね?プラチナ。」
「まぁ、行けば分かるらしいし……。じゃあフローシア先生、また。」
「ああ、んじゃなー。」
プラチナが言うと、シア先生はグッと親指を立ててあたし達を見送った。
アカデミーの授業が一通り終了した時、
「プラチナ、落ちこぼれ。」
「あ、ダース。」
突然、ダースがあたしとプラチナに話しかけてきた。
ダースが呼ぶのに反応した後、あたしはハッとあることに気づく。
「あ、あんたねー!?いつもいつも落ちこぼれって呼ばないでよ!」
「なんだ、お気に召さないか。」
「当たり前でしょっ!?」
「何だかんだ言ってその言い方で反応してる辺り黙認してるのかと。」
「ち・が・う・わ・よっ!!」
「ま、まぁまぁアシャン。」
余裕なダースの態度に殴りかかろうとすると、プラチナがあたしを制止させた。
……畜生っ、プラチナが止めなきゃあんたなんてぼっこぼこなのにぃ…!
恨めしげな視線を送ったが、ダースは気にする事なく話を続けた。
「フィリアス先生が呼んでるぜ。」
「フィリー先生が??」
「――……俺は断ったんだがな。」
「…??」
「行けば分かる。…ついてこい。」
「あ、うんっ。」
またフィリー先生……??
ダースは朝にも呼ばれてたわよね。
それにシア先生が言ってた「良い事」ってなんだろ…うーん。関係してるのかしら??
色々思うことはあったけど、あたしとプラチナはダースの後をついていった。
「フィリー先生!」
職員室の奥の方。フィリー先生の机の椅子に、本人は座っていた。
あたしがフィリー先生の名を呼ぶと、フィリー先生は小さく反応した。
「来ましたか。…話はダースから聞いている?」
「?いいえ、何も…。」
「そう……。伝えてくれて良かったのに。」
「だから、俺は面倒ごとは嫌だって言っているでしょう。第一っ、」
「…あの……。」
ダースが珍しく感情を露にする。あたしは二人のやり取りを首をかしげて見ていると…
プラチナが、不意に小さく呟いた。
「さっきから、何の話してるんですか??」
あ、プラチナナイス発言!
なりゆきが分からないあたしには、とてもありがたかった。
フィリー先生はコホン、と咳をするとあたしとプラチナを見た。
「細かい事を話せば長くなってしまうのだけれど……。
実習授業の総合で、クラスで一番優秀だったのは貴方達ダース班です。」
「……え!?」
ど、どうして??だって実習授業の時…って、薬、ロバートさんの為に使っちゃったし…。
今朝までに提出の筈が、提出できなかったし……。
本来ならドベになる筈だったあたし達の班が、クラスで一番優秀…?
「命までは救いきれなかったとは言え、困り果て苦しんでいる人間の為に薬を与える…。
提出こそはできなかったとは言え、錬金術士としてとても正しい行為です。」
フィリー先生の言葉に、あたしは黙り込んだ。
…良かったのかな。確かにロバートさんの為に薬を与えたとはいえ、命を救うことはできなかったし…。
「そこで…クラスで一番優秀な班に、依頼があります。」
「僕達に、ですか?」
「ええ。」
プラチナの言葉に頷くと、フィリー先生は机に置いてあった小さな小箱をあたし達に見せた。
「これを、隣の大陸の魔法都市まで届けてほしいのです。」
「これを……あたし達が??」
それが、フィリー先生のあたし達への依頼?
と言うかこの箱…何が入ってるのかしら??
それよりもなんでダースは嫌がってるんだろ……。
「ええ。任務期間中は勿論あなた達に授業はありませんし。」
「えっ!!」
フィリー先生の言葉に、いち早くあたしが反応した。
ダースとプラチナが「やっぱりか。」って感じであたしの方を見る。
授業がないなんて、何てラッキーなのっ??
「それに、あなた達を乗せる船は豪華客船で……、」
「豪華客船っ!?」
「………。」
再び突き刺さるダースの視線と、苦笑するプラチナの視線。
豪華客船!?わー凄いっ!!
船だけでも乗った事なんてないって言うのに、豪華客船って言ったらどれだけ大きいんだろ!
「行こうよダース、プラチナ!!他でもない、フィリー先生の頼みだし!!」
(ただ授業ないのと豪華客船に惹かれてるだけだよね…。)
(…ああ。)
キラキラと目を輝かすあたしの言葉に、ダースとプラチナが目線で何か会話をする。
二人はなんか乗り気ではなさそうだったけど、あたしが行く気満々な為か、
フィリー先生はにっこり笑う。
「決まりですね。」
「ちょっ…フィリアス先生!俺は良いとは一言も……!」
「ダース!行 く よ ね ??」
「…………。」
どうしても行きたいが一心で、あたしが抗議するダースに少し強気に訊くとダースは黙り込んでしまった。
あはは……ちょっと、強引だったかしら??
「ではまた後日に詳しくお話します。……頼みましたよ、ダース。」
「………はい。」
「はーいっ!!」
「は、はーい…。」
フィリー先生の言葉に、凄く低いテンションのままダース、
気合を入れるあたしに、苦笑しながらプラチナが返事をする。
まぁ、そんなこんなであたし達は豪華客船に乗って隣の大陸まで行く事になったのでした。
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