*Side-Hatori&Midori
綾瀬美鳥



「命拾いしたね。そのままのたれ死んでくれるとありがたいな。」

忌々しい、男の声。
顔立ちは美形、と言っても過言ではないと思うその男には
不釣合いの台詞に、僕は倒れながらも唇を噛んだ。



傷が、ぎしぎしと、痛い。
二人はもう、何処かへ行ってしまったようだ。
本当は起き上がって、その隙に奇襲でも仕掛けようとも思ったが、僕はそこまで馬鹿じゃない。
今奇襲を仕掛けても、返り討ちに遭うのがオチだ、と判断したから。
(何なんだ、あの男は……。)
あの男――ふざけた口調の方。
何だか、あの男が呪文――のような物を唱えたら、変な大きい鎌が出てきた。
そしてまた呪文を唱えたら、変な風が出てきて、僕と琶鳥に重症を与えた。
男は魔法だ、と言っていた。
(本当に――魔法なのか……?)
なんて、メルヘンなのだろう。馬鹿馬鹿しい。
……しかし、死神がいる世界だ。魔法なんて未知なるものがあっても、おかしくはない気もする。

「…美、鳥……。」
「ん……琶鳥、無事か?」
「………、」
不意に、消え入りそうな琶鳥の声が聞こえ、ぶっきらぼうに返すと琶鳥は沈黙してしまった。
こいつは話し上手な方じゃない。沈黙だって珍しくはないが……。
(無事なのか無事じゃないかの返事くらい――……え?)
思いかけて、固まった。
重い身体を必死に動かして琶鳥を見れば――…いつも無口で無愛想な琶鳥は、涙を流していた。
「は、とり――…おまえ――……。」
突然の出来事に、流石の僕も焦って彼を見る。
なんて声を掛けたらいいか分からない。第一、何で泣いているんだ。
「…平気か?さっきの、痛かったのか?怪我――したのか??」
「違っ……ちがうん、だ……美鳥……。」
恐る恐る訊くと、琶鳥は首を横に振って答えた。
…じゃあ、いったい何故。
「……を…。」
「うん…?」
そう思った刹那、琶鳥はちいさな声で、ポツリポツリと呟いた。
「美鳥を……護れなかった……から……っ」
「………っ」
「また、俺は、」




――美鳥が傷つくのを、見ているだけだった。




「…はとり…。」
涙を流しながら呟く琶鳥は、とてもキレイだった。
ずっと、復讐の事だけ考えてた穢れた僕とは、大違いで、
泣く琶鳥の涙を拭おうとして、琶鳥に触れようとしたけど――やめた。

さっき、盲目の男を切り刻んで返り血を浴びた僕がこんなに綺麗な
琶鳥に触ったら、琶鳥が穢れてしまいそうで。
「……馬鹿、そんな事言うなら僕だって同じだ。お前を護れなかった。」
「………美鳥…。」
「だから、泣くな。…お前に泣かれると、どう接していいか…わかんなくなるから。」
「…ごめ…ごめん……美鳥…。」

僕が言いたい事は、こんなんじゃないのに。
僕が望んでる事は、こんなんじゃないのに。


言葉は、ただ、不器用で。
僕はただ、お前のその涙を止めてあげたいのに、きつい態度になってしまい、
僕が怒ったと思い込んだ琶鳥は俯きながら、必死に涙を止めようとした。

言葉は、ただ、不器用だから。
「美鳥――…?」
だから、行動で示そうと、消え入りそうな琶鳥の身体を抱きしめた。
僕の咄嗟の行動に驚いたのか、琶鳥は泣きじゃくりながらも、驚いたような声をあげた。
「…悪い。いきなり泣き止めなんて言っても、無理な話だよな。
……ほら、可愛い弟が抱きしめてやるから、泣き止め。…好きなだけ泣いた後にな。」
「美鳥――……ご、めん…。」
「…まったく、手のかかるお兄ちゃんだなーおい。」
照れ隠しにわざと軽口を叩きながら、琶鳥の頭を撫でる。
でも――こうしていると、仲の良かった昔に戻れたみたいで、なんだか幸せだった。


……こんな幸せがいつまで続くのか。この時僕はまったく考えもしなかったのだけれど。



あとがき
みどはとですね…!(ぇ
お兄ちゃんは弟の事になると色々と泣き虫です。実は。


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