*Side-Hatori&Midori
綾瀬美鳥



「お前っ……!」

暗い夜。
不意に、誰かに名前を呼ばれて振り返る。

人に恨まれることなら今まで何度となくやってきたさ。
どんな些細な事でも、なんでも。
人に恨まれることになら慣れていた。
だから、その時も、特に気にせずに戦おうと思ったんだ。
その顔を見るまでは。
「……美鳥…あいつ等……。」
「…ごめ…琶鳥。」
「……?」
知り合いか?とでも聞きたそうな琶鳥の言葉を遮って一言、謝る。
茶髪の、二人の男にはとても見覚えがあった。
「見つけた…息吹の仇…。息吹を…よくも……。」
「…言いたい事はそれだけ?」
「てめぇっ……!!」
「飛沫、」
僕の言葉に怒りを露にする男を見て、盲目の方が静かに止める。
その二人は――僕がゲーム始まったばっかりの頃に奇襲を仕掛けた相手だった。
人に恨まれることなら今まで何度となくやってきたさ。
どんな些細な事でも、なんでも。
人に恨まれることになら慣れていた。
恐怖なんてない、筈なのだ。それなのに。
「まさか遭うなんて思っていなかったけど…遭ったら絶対、殺してやろうと思ってたよ。」
低い声で、名前も知らない男は言う。その瞳には、確かなる殺意。
……何故だか、言い知れぬ恐怖が、そこにはあった。
何でだろう。何で、こんな奴怖いと思うんだろう。
「息吹を傷つけた奴は、許さないっ!!」
「……!」

……ああ、分かった。

(こいつ、僕と似ているから、怖いんだ。)
敵討ち――……以前の僕なら馬鹿馬鹿しく感じたんだろう。
だけど…こいつの、盲目の男を想う気持ちは、どことなく僕と琶鳥に似ている。
僕の、琶鳥を想う気持ちに。

こんなゲームが始まるまで気付かなかった。
僕は本当に琶鳥が好きで、誰にも渡したくない。
この感情を、どう表現したらいいか分からない。っていうか、琶鳥には絶対いえないんだけど。
「次に会ったら、二人まとめて殺すって言ってたよな。……掛かってこいよ。」
僕は、本当に、琶鳥が好きだから。
この男みたく、琶鳥を傷つけられたら…どれほど狂ってしまうのだろう。
……そんな事、考えたことなくて。
「来ないなら、こっちからいくけど。」
だから……。


「っ!!?」
「う…ぁっ……!」
ズキュゥンと言うような音と男のうめき声が聞こえて、僕は顔をしかめた。
不思議に思って琶鳥を見ると――……琶鳥は、赤に染まっていた。
スナイパーライフルを握りながら、返り血にまみれて。
「は…とり……。」
普段、無口で無愛想で……とにかく不器用だけど優しい琶鳥。
ずっとそんな顔を見慣れてきたから、だろうか。
だから、まさか…余計にこんな顔するとは思わなかった。
「事情は良く分からないが、美鳥を傷つけるな。」
「っ……飛沫…!!」
「大丈夫…かすっただけだから……。」
銃を構えながら、冷酷に言葉を放つ琶鳥を、僕は見たことがない。

(……ああ、そうか。)

人は、大事な人を傷つけられると、こんなにも、変わってしまうんだ。
男も、琶鳥も、みんな、みんな怖い顔をしている。
僕は生まれてこれまで……今日まで、大事な人なんていないと思っていたから、分からなかったけれど。
「飛沫を……良くも……!」
それまで殆ど黙っていた盲目の男が、光の無い瞳でこちらを睨みつけてきた。
そして…手にしていた日本刀を構える。
「飛沫、サポートしてくれる?」
「わかった!」
サポート受けながら戦う…日本刀使い?聞いてないぞそんなの。
(でも――目の見えない事に代わりはない。)
そう、侮っていた時、だったんだ。
「…っ!美鳥ッ!!」
「え、」
不意に、悲痛な琶鳥の叫び声に、驚いて振り返る。
その刹那――
「…………はとり?」


ビシャリ、と僕の顔に生暖かいそれが降りかかった。
それは、琶鳥の身体から吹き出たもので――。
「……目が見えないの、ハンデだと思った?」
「………はとりっ!!」
「だとしたら、己の能力を過信した君達の負けだ。」
「はとり!!」
盲目の男が、冷徹に言い放つのとほぼ同じタイミング…だっただろうか。
僕の前に立ちはだかった、琶鳥の身体がグシャリと倒れた。
琶鳥の身体は、日本刀で切り裂かれて――…。
「はとり…はとりっ……!!」
そこでようやく、事態を把握した。
……琶鳥は、この男に――。


あふれ出る血を止めてあげたい。
今すぐにでも助けてあげたい。
でも、僕はただ、見ているだけで――…。
「……お前っ……よくも……!!」
「何が悪いの?自分からやってきた癖に。」
「…息吹?」
クス、と笑う盲目の男に、もう一人の方は驚いたような顔をした。
それは、今まで穏やかだった男が見せる、初めての表情だった。
「最初に攻撃してきたのは君達じゃない。それで――僕達が悪者?まるで偽善だね。」
「………!!」
男の言っている事が全部正しく聞こえて、悔しくなって唇を噛んだ。
言い返す言葉がない。出てくるのは、子供じみた屁理屈だけ。
「……息吹、もう行こう。」
「え?飛沫…どうして?この子だって、飛沫を傷つけようとしたんだよ?殺さないと気がすまないな。」
「…いいから…いこう。」
「…飛沫がそう言うなら、仕方ないかな…。」
足の不自由な方の言葉に軽く笑うと、男は僕に背を向けた。
最後に、背筋が凍るほど、冷たい瞳で僕を睨みつけて。

「………っ…。」
そして、僕は一人、その場に残された。
「……琶鳥…。」
「…み……どり……?」
「…!!」
微かに声が聞こえて、僕は驚いて琶鳥を見た。
血を吐いていたけれど、琶鳥の意識はまだあった。
「琶鳥……!!今、助けるから……っ」
「…みどり……俺なら……だいじょうぶ…だから……。」
「……でもっ…!」
無理なのは分かっている。治す道具なんてないし、こんな出血量じゃ、治らないことくらい。
でも、だけど。
「折角……また……会えたのに。」
今度こそ、離れないって思ったのに。
ようやく、自分の思いに気付いたのに。
…もう、素直になれると思ったのに。
「みどり……ごめん………。」
言いながら、彼は僕の瞳の涙を拭う。
そこで初めて、自分が泣いていると言うことに気付いた。
今までずっと、泣いたことなんてなかったのに。
「さいごに……泣かせちゃって……ダメなおにいちゃんで……ごめん…。」
「はとり……っ喋るな!馬鹿ッ!!なんで…最期なんて言うんだよ!?」
「……ごめん……な…」
だから、どうして。
僕に謝るの。
そうやって、綺麗な笑みを浮かべれるの。
ねぇ、琶鳥――っ。
「でも……よかった……。」
「……え…?」
「最期の最期で……美鳥を……まもれた……。」
「………っ!!」
最期に、それだけ言うと、琶鳥は静かに目を閉じた。




『美鳥を……傷つけるものなら、容赦なく撃つ。』




こうして琶鳥は『死』と言う形式で、『僕を護る』と言う誓いを――果たしたのだった。
そして――琶鳥の『死』で、僕の冷めかけていた心に、火が灯った。
「……殺してやる……殺してやる……っ……!!」
兄を、殺したあの男を。
兄を、殺したあの男の片割れも一緒に。
「殺してやる……!!」
兄を、殺したあの男とおなじ、他の参加者も。

……ああ、ようやくわかったよ、琶鳥。
失ってから気付くなんて、僕も大概馬鹿だけれど。
「復讐――僕の存在している理由は、復讐だから…。」
復讐をする為に、此処にいる。
そうだ。
みんな、みんな僕から大事な物を奪っていく。
だから、今度は単純に、それらを奪った奴等に復讐がしたかった。
でも、あいつは、僕の一番大事なものを奪った。
なんだって、僕はいつも、
(奪われてばかりなんだッ……!!)
琶鳥が使っていた、すっかり血にまみれたスナイパーライフルを拾い上げる。
(……今ので、決意がついたよ。)


殺してやる。



あの男も、あの男もだ。
「みんな、みんなだいっきらいッ!!」
苦しんで、叫んで、死ねばいい。
琶鳥以外の奴なんて要らない。
「みんな、いなくなってしまえばいいのにッ……!!」


握り締めたスナイパーライフルに、思いを馳せた。



あとがき
はい、死にました……。(……
うわぁん!彼は結構好きキャラだったので殺したくなかった……!(マテ)でもそう言うお話ですしね……;
琶鳥が死んだ事で美鳥は元の殺人鬼の顔を取り戻しつつありますが、どうなることやら………。
あ、もしかしたら結構すぐ終わりそうです、小説版Twins。


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