*Side-Ibuki&Sibuki
白端飛沫



「おーい、飛沫ーっ!」
「んー?」
後ろから聞こえてきた声。
それはいつもと変わらぬ、双子の兄の声。

「……え?」




――思えば、あの時の記憶と言えば本当に馬鹿みたいなものだった。
にっこりと笑いながら俺に手を振る息吹が突然、跳ね飛ばされた。
最初は……それだけ。
「っ!!息吹―――ッ!!!」
だって、何が起こったかわからなかったんだ。
気づいた頃には俺は無我夢中で叫んでいた。

…後には、血の記憶だけ。





兄は一命を取り留めた。
だけど、その代償として大きな物を失った。
それは、両目だった。
「息吹……どうして……」
「お母さん……ごめんね。僕もう、貴方の顔さえ見れない。」
悲しげに笑った息吹の目には包帯が。
きっとこの包帯をほどいたら、そこには虚ろな瞳の息吹が現れるんだろう。
そう思うと、途端に信じられなさが強くなった。
だって、さっきまで笑って手を振っていたんだ。
そんな人間が突然――……

母さんは両目を失った絶望と、一命を取り留めた事の嬉しさも混ざった涙を俺たちに見せると、病室から出て行った。
きっと精神的にも、疲れていたんだろう。
…病室に残されたのは、俺と包帯を巻いた息吹だけだった。
「………息吹…。」
なんて、声を掛ければ良いのかわからず紡がれた言葉はただそれだけだった。
兄はこんなにも大事な物を失ったんだから。
俺は何も言う事が出来ない。慰めも、励ましもできない。
何をすれば良いのかなんて、わからなかった。
でも――
「ふふふ……あははははっ」
「……………え?」
聞こえてきたのは、悲しみの代償を背負った筈の兄の、笑い声。
それはとてもとても楽しそうな声で。
俺は一瞬耳と目を疑った。
…目の前にいる人間は兄なんかじゃないんだと。
…今の笑い声はきっと幻聴なんだと。
でも、息吹は笑い続けた。
本当に楽しそうに。
「息吹……!?」
その笑い声が、ただ怖かった。
聞きようによれば、狂人のようにも聞こえる笑い声が。
「えへへ、嬉しいなぁ」
「え……?」
息吹は思い切り笑うと気が済んだのか、にこにこと包帯の下で笑顔を見せると言葉を続けた。
「僕も、やっと大事な物が失えた。足の不自由な飛沫と一緒!
これで息吹だけが苦しむことはないやっ。」
「い、ぶき……?」
何を、言ってるんだ?
そう聞きたかったけど、あまりの息吹の変貌に、俺は声も出なかった。
さっき、確かにさっき、母さんと話していた時悲しそうだったのに。
まさかあれは……最初から、演技で?
「息吹!!お前、もしかして最初からそれが目的でッ!?」
「うん、そうだよ。」
「なっ!!?」
…ちょっと待てよ。
じゃあ、俺に笑いかけて駆け寄ろうとしたのも、ダンプカーに跳ね飛ばされたのも。
あれらは全て、息吹の…計画だったのか?
「僕、飛沫が好きだよ。大好き。多分、ここまで人を好きになんかなれないと思う。」
「い、ぶき……」
「だからね…僕大切な人の痛みを知りたかったんだ。生まれながらに足が不自由な飛沫の痛みを…」
「そ、そんな――」

―――嘘、だろ。

俺が…障害を持って生まれたから?
俺が…足が不自由だから…?
だから、俺が…
俺が息吹をここまで…縛り付けていたのか?
「えへへ、これからはおんなじだね。苦しみも痛みも分かち合っていけるね。」


俺が望んだのはこんな事じゃない。
こんな事じゃなくて――







「俺が望んだのは、」
『あの日』の出来事を思い出して強く拳を握った。
どうして、俺の気持ちが伝わらないんだろう。


……兄の、幸せ。
足の不自由な俺なんかみたいに障害を持たないでほしい、と
そう願っているのに。


本当に、息吹さえ幸せだったらね、俺は何もいらないよ。




たった、ただそれだけで良かったんだ――。








黒い翼が降り注ぎ、辺りが光に包まれたのはその直ぐ後だった。


あとがき
障害ペア。すれ違う想い……!(ぇ
優しいけど芯の強い息吹と、明るくて息吹大好きな飛沫の高校生ペア。
この二人結構好きだけど、こいつらの受け攻めも明確じゃないなぁ。
個人的には優しいけど攻める時には攻める息吹がいいなぁ……!(ぇ



Back 
Next