*Side-Ibuki&Sibuki
白端息吹



一歩、二歩、三歩……。



歩きなれない道を、歩く。
(…どうしよう。バラバラに呼ばれちゃったから…不安……。)

僕…白端息吹は弟の飛沫より前に呼ばれてしまって。
情けない話だが、僕は目が見えない。うん、まぁ自業自得なんだけど。
学校や商店街への道くらいなら、頑張れば一人でも歩けるんだけれど、
初めて歩く場所故、正直自分でも歩いていてどこを歩いているのか分からない。

もしかすると、『ゲーム』に乗った子に遭遇して、訳も分からないまま死んでしまうかもしれない。
(……嫌、だな。)
飛沫の為なら、僕は喜んで死ねる。
だけど…飛沫を護れないまま死ぬなんて、絶対に嫌だ。
…だけど……見えない両目は、辛い現実を表しているかのようだった。
「――…お兄さん、こんにちは。」
「……?」
不意に誰かに声を掛けられて、僕は足を止めた。
少し高めの、声。中学生?…ううん、小学生かもしれない。
えっと、それよりも……。
「えと……僕の事、かな?」
「そうだよ。…へぇ、お兄さん目見えないんだ。」
驚いたような男の子の、声。
…攻撃してくる気配は、無い。
どうやらゲームには乗っていない子…みたい。
ほっ、と心の中で安堵する。
ここで死ぬのだけは免れたみたい。
「だけど目が見えないって随分辛いね。……ハンデなんてあったもんじゃない。」
「そ、そんな事……。」
男の子の声に、僕は「ないよ。」と続けようとした。
……けど、続きの言葉が出なかった。
現に僕は、飛沫がいないから歩けないんだ。
「なら、ここで死んでもあまり変わらないかもね?」
「……え?」
「クス、だって生き残ったって何も見えないもん。」
男の子は皮肉を含んだ言葉で、そう呟いた。
………、確かに、その通り……なんだ。
僕は、目が見えない……から……だけど…。
「ううん……こんな僕だけど、がんばって生き残らなきゃ。」
「……?」
「頑張って飛沫と一緒に、生き残るの。」
「………、ふぅん…そっか…。」
男の子がいまいち納得いかない、といった感じで返事をした。
…偽善かもしれない、それでも僕には、飛沫だけだから。

そして。


「――…そう言う奇麗事、大ッ嫌い。」
「……えっ」
聞こえてきたのは、先ほどまで話していた男の子の、醜く歪んだ低い、声。
それに……、
「ッ………!!」
「痛い?」
「うっ……あ………っ!!」
不意に、刃物が体内に入っていくような感覚。
や、だ……やだ……っ
目が見えないだけに何が起こっているのか分からなくて。
何もかも分からない僕にたった一つだけ教えてくれたのは、ぽたぽたと言う音。
……それは、目が見えなくても十分分かった。
…僕の……体内から出た血で。
「へぇ。ただのナイフだから使い勝手なさそうだと思ったけど。盲目の人間にはこれで十分かもね。」
クスクス、と笑いながら男の子は僕の身体からナイフを引き抜く。
次に僕をどうするかは、明白だ。
「ばいばい、お兄さん。」

ああ、僕。
飛沫を護れないまま死んじゃうのかな。
そう思うと何とも言えない感情が沸いてきて。
「……っ、飛沫ぃっ………!」
ギュッ、ときつく目を瞑って、愛しい人の名を呟いた。
――刹那。
「―――ッ!!!息吹ぃーッ!!!」
「え。」
聞こえてきたのは、男の子の驚いたような声と、聞きなれた声。
目が見えなくたってわかる、この声は。
「し……ぶき…?」
「息吹ッ!!…お前っ……息吹に何を……っ!!」
「………へぇ。愛の奇跡、って訳。」
「何が言いたいっ!!?」
馬鹿にしたかのような男の子の声に、飛沫は声を荒げる。
普段聞く優しい飛沫の声とは、ぜんぜん違う。怒りに歪んだ声。
「…仕留められないのは残念だけど、二対一じゃ分が悪いかな。」
そう言うと、男の子は僕から後ずさる。
そして最後に、残酷なほど綺麗な声で、呟いた。
「――さよなら、お兄さん。次に会ったら、二人まとめて殺してあげる。」
「……っ、待てっ!!」
「し、飛沫…やめて……。」
背を向ける男の子を追おうとする飛沫の身体を、ギュッと抱きしめる。
「駄目、なんだ……。あの子、きっと本気だ。」
「い、ぶき…。」
憎しみの声。
あの子が何を思ってるかは分からないけど、今なら飛沫にだって刃を向けてくるかもしれない。
そんな事があったら、僕はきっと一生自分を許せないだろう。
僕の気持ちを分かってくれたのか、飛沫は僕に向き合った。
何故だろうか、目は見えないけれど、双子でずっと一緒に育った為か、
飛沫だけは見えるんだ。虚ろなこの瞳じゃなくて、心の目で。
「それより、大丈夫か?さっき、斬られただろ……?」
「あ…うん。思ったより深くはないみたいだから。」
「ごめ……ごめんっ…息吹……俺……。」
「……え…?」
「息吹を、護れなかった……。」
そう言って、飛沫は僕の身体を少しだけきつく、抱きしめた。
そして……僕の手の甲に落ちてきた、一筋の雫。
僕なんかの為に、涙してくれる人がここにはいる。
…だけど……。
「……違う…違うよ…。」
「…息吹……?」
違う、んだ。
本当は……僕は足の不自由な息吹を護らなくちゃいけないのに。
「僕は…また結局、飛沫に助けられてる…。」
「え……、」
「君を護りたいと強く願えば願う程、僕は君に助けられてるんだ…。」
分かっては、いた。
こんな見えない目じゃ、君を護る事も難しいって。
だけど信じたかったんだ。…こんな僕でも、頑張れば飛沫を護れるんだと。
「……何言ってるんだよ。…息吹は、無理しすぎなんだってば…。」
「だ、って……だって!君は……かけがえの無い、たった一人の弟だから…。」
「…らしくないよ、息吹。あの時みたいに二人で護りあっていけば良いじゃん…。」
「………飛沫…。」
そう言うと、飛沫はとても優しい声で笑った。
時にその声は、僕を苦しめるものだと知らずに。


あとがき
念願のバトルシーン…!!とは言え、まだ奇襲レベルですが;
個人的には息吹と飛沫のイチャイチャが書けて大満足であります(爆)でも相変わらず受け攻めの明白じゃない二人…。
今回は飛沫が息吹を助けたこともあって、飛沫が攻めっぽいです。が…基本この二人はリバかな…。
ちなみに分かる人にはわかるかもしれませんが、奇襲を仕掛けてきたのは殺人鬼美鳥くんです。
小学生なのに殺人鬼な彼に奇襲を仕掛けられて死なない息吹はある意味凄い…?(笑



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