*Side-Hatori&Midori
綾瀬美鳥



「――さよなら、お兄さん。次に会ったら、二人まとめて殺してあげる。」

皮肉を込めて、にっこり笑って二人に背を向ける。
その内、足の不自由な方が僕を呼び止めようとしたが、直ぐに盲目の方に止められる。
……ふん。馬鹿馬鹿し。
二人から大分離れたところで振り返り、目を細めて先ほどの二人を見る。
案の定二人は二人だけの世界に入り込んじゃってて。…あーあ、反吐が出る。
助け合い、って奴。…ああいうの、大ッ嫌い。
それにしても。あーあ、制服汚れちゃったな。私立の制服だから高いのに。
白いから洗っても取れなさそう。白い制服に赤のコントラストが随分素敵だなおい。

まぁ、もっとも。
(これから、更に汚れるんだろうけど。)
この白い制服も。手も、顔も。全て。
僕はこの小さなおもちゃのようなナイフに誓ったのだから。


僕は大切な物を、たくさん奪われた。
父さんも母さんも、幼い日の思いも、そして…大事な琶鳥でさえ、叔父さんに。
(だから……これは、僕の復讐だ。)
関係ない奴らだ、ってことは、自分でも分かってる。
でも僕は……単純に、今度は『奪う』側になりたかったんだ。


「………っ、美鳥っ!」
「…?」
そんな事をぼんやりと考えてると、声が聞こえた。
まだ再会したばかりだから聞き慣れはしない声。だけど、何処か懐かしみのある。
「…なんだ、琶鳥か。随分と息切れ切れだな。」
「美鳥っ………!」
「………血相変えて、どうしたんだ。ったく。」
まぁ、8年も離れて暮らしていたとは言え中身は殆ど変わってない
琶鳥の思考なんて、大体は分かるけど。
「その、制服……。」
言いづらそうな声で、琶鳥は俺の制服に目を向けた。
…ああ、やっぱ、これか。
目立つかやっぱり。…白い制服に赤色だからしょうがないな。
「何か勘違いしてるようだけど、琶鳥?」
「……?」
「僕はまだ誰も殺してないよ。」
「………、…本当か?」
「…何だよその信じられない、って目は。」
ったく、心配性なのは昔から変わらないな。
まぁ……いずれにせよ誰か殺すことになるだろうけど。
「仕留め切れなかった。途中で白馬の王子様が登場しちゃってさ。」
「……それで、お前…。」
「んー??」
自分でも言っててやる気の無い声だな、と思う。
それほどに、今は異常に琶鳥が目障りだった。
……何でだろ。普段はここまで、こんな事思わないのに。
「……お前は…、」
「………、」
そこまで言うと、琶鳥は悲しげな顔を僕に向けた。
無償にまた……怒りが、沸いてくる。
「煩い…。」
「……美、鳥…?」
「第一、お前には関係ない。僕がゲームに乗ろうが誰かを襲うが、お前には関係ないだろ。」
「…………ご、めん…。」
今にも消え入りそうな琶鳥の声を聞いて、僕の胸が少しだけ痛んだ。
分かってる。それが八つ当たりだって。
…だけど、琶鳥に見られたくなかった。…聞かれたく、なかった。
何より……心配されたく、なかった。
「……僕なら…平気だから。だからそんな顔するな、鬱陶しい。」
俯く琶鳥に吐き捨てるように、僕は言った。

(……ごめん。)

そんな思いを少しだけ含んで、僕は琶鳥に背を向ける。
(……ヒドイ事、言ってしまった。)
分かってる、そんな事。
だけど、仕方ないじゃないか。
8年も離れてたから、僕は琶鳥に対しての接し方が分からない。
僕の態度の所為で、琶鳥を良く苦しませているのだって、分かってる。

(…だから、もう。)
ギュッ、と目を瞑ると僕は琶鳥に背を向けたまま、歩き出す。
もう、琶鳥は僕についてくることはない、だろう。
本当は昔みたいに仲良くしたい……けど、それは叶わない願いだから。
優しくしようとすればするほど、彼に辛く当たってしまうのは目に見えてるから。
だから、もう僕なんかに構わないでほしかった。

「美鳥、」

のに……。

「俺も…美鳥についていくから、な…。」
「………は?」
「…何だ?」
「お前…正気?」
そういえば、さっきの驚いていた琶鳥の顔。
今度は僕がさっきのあいつのような顔をしていた。
それほど、こいつの言った事は僕にとってはかなり意外だった。
「俺は……もう美鳥が傷つく姿を見たくはない、から…。」
「……、」
「だけど…美鳥が誰を殺そうが、誰を傷つけようが俺は止めない。
……俺は…美鳥を傷つける奴なら、殺してみせるよ。」
ぶっきらぼうに…だけど、琶鳥にしては珍しく力強く言い切った。
その意外な言葉に思わず頬が赤くなる。
悔しいけど…嬉しかったから。
「……あっそ、勝手にしろ。」
「ああ、勝手にさせてもらう。」
「………ふ、ふんっ。」



こんな状況で、アレだけど。
(……もっと…仲良くなれたら、いいな。)
そして、同時に…、
(もっと――…素直になれれば…良いのに。)
8年前のあの時のように。


あとがき
美鳥は殺人鬼だけど、本心はこんな子です。
大切な物を沢山色んな人に奪われた美鳥はすっかりひねくれてしまい、
ゲームが始まる前からも誰かから何か、大切な物を奪いたかったみたいです。
そんな彼の事を分かってあげられるのは琶鳥だけ。でも、二人ともお互いに素直になれないのですれ違いが多かったり…。



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